第9話 敵侵攻艦隊
X-71はURASIMAから出航し、星系内の
事前連絡なく星系内の安定宙域にジャンプアウトした物体を広域探査網が探知した。常識的に考えれば事前連絡のないジャンプアウトは敵性のものしかありえない。探知された質量の総数は34。戦艦並みの大質量の物が8、その他が26。
皇国標準時、午後4時ちょうど、星系内に設置された広域探査網から警報が発せられた。
この段階で、皇都惑星出雲にある皇国航宙軍本部に対し緊急通信がURASIMAから発せられている。
ここは。URASIMA内に設けられた第44艦隊司令部作戦会議室。
広域探査網からの警報を受けた駐留艦隊司令部において緊急作戦会議が開かれていた。今のところ先ほどの緊急通信に対する航宙軍本部からの返信、具体的な指示を駐留艦隊司令部は受け取っていない。
席上、軽巡洋艦香取の艦長、中島中佐が、艦隊司令官
「提督、一人でも多くの民間人を救い出すため、救命艇、連絡艇など、地表に降下可能な艇は全て出しましょう。補給艦を空にしてそこに詰め込めば、3000人は救えます。艦隊は、1秒でも長く敵を足止めするため、突撃するべきです。敵が惑星制圧用に強襲艦を引き連れているようでしたら、それさえ撃破すれば敵は撤退します」
「中島中佐、君の言うこともわかるが、20万の開拓民からどうやって3000人を選ぶんだ? しかも、われわれの現有戦力で敵に突っ込めば、単に犬死するだけだぞ。敵が現状どこの国のものかはわからないが、まさか開拓民を虐殺することはないだろう。速やかにわれわれは撤退する。撤退に際し、このURASIMAは破壊する。すでに決定したことだ。異論は認めない」
中島中佐が口をつぐんだところで、司令部要員が、
「まだ航宙軍本部からの指示が有りませんがよろしいですか?」
「指示待ちで何も準備していませんでしたと弁解することはできない。誰であろうとこの状況下では撤退をするしかないと結論を出すはずだ。今言ったことを進めてくれ」
「了解しました。あと、実験部についてはいかがしますか? 現在、例の実験艦は出航中のようです」
「URASIMAを破壊することを知らせて、すみやかな撤退を勧告するだけでいい」
民間人から見た場合、一戦も交えることもなく駐留艦隊が撤退することは許されないが、
司令部での会議中にも広域探査網からのデータが解析され、最終的に敵の戦力は、巡洋戦艦2、重巡洋艦4、軽巡洋艦4、駆逐艦16、強襲艦2、補給艦4、雑役艦2であることが判明した。国籍については依然不明である。
敵の陣容が解明されたことを受け、駐留艦隊司令部は、再度航宙軍に指示を求める通信文を送っていたが、これについても返信はまだない。
駐留艦隊は自身の判断で、開拓コロニーに無駄な混乱を招かないため、緊急事態の発生を開拓コロニーの行政府に伝えぬまま、あわただしくURASIMAから全艦出航していった。
そしてもはや駐留艦隊とは呼べなくなった第44艦隊は、敵艦隊および惑星乙姫から十分距離を置いた安定宙域で全艦ジャンプし、竜宮星系から離脱した。
ジャンプ先は、SS-72竜宮星系のとなりのSS-71
「艦長、第44艦隊司令部から艦長あてに通信文が届いています。艦長のスクリーンに出します」
「わかった。なになに……」
『発:第44艦隊司令部 宛:実験部実験艦艦長
正体不明の戦闘艦艇を多数発見。現有戦力での迎撃は
「ワンセブン、おまえの言った通りだった。よーし、俺の金を自由に使っていいからちゃんと増やしてくれよ」
『現在、謎の艦隊が皇国の領域を侵犯中であり、これに対して航宙軍がなんら有効な手を打っていないという事実がすでに中央で流れています。株価平均は、昨日の終わり値に対し現在20%ほど下げています。昨日大量の先物を艦長名義で売り建てていますから、現在の評価益で、最新鋭戦艦を1隻ほど建造できます。
話を戻しますが、ユーグ艦隊が乙姫を攻略完了すれば、間を置かずユーグより皇国に対して宣戦布告が行われます。
皇国の現有艦隊で今回のユーグ艦隊を完全撃退するに足る艦隊を編成するには約5日、その艦隊がここ竜宮星系に派遣されるまでにさらに3日かかります。予測では、その前に大華連邦とその実質的属国のミコリアナが
「これから、俺たち、おまえを含めてたったの四名で、連中の考える
『その通りです』
【補足説明】
安定宙域というのは超空間ジャンプする場合の擾乱が起こりにくい重力的に安定した宙域で、ジャンプする場合、ジャンプ先を安定宙域とすることで、複数の艦船が同時にジャンプしてもお互い干渉することなくジャンプできる宙域のことである。こういった安定宙域は各星系に複数存在するが、各安定宙域周辺には当然、光学式精密探査機などが複数個設置されており、それら探査機は星系内広域探査網に組み込まれている。
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