　艦隊消滅に対して、ユーグは何もコメントを出せなかった。ユーグに２隻ある重巡洋艦こそ今回の作戦に出していなかった関係で温存できたが、軽巡１、駆逐艦４を編成の基準とするユーグの保有する全６雷撃戦隊のうち、今回の作戦に供出した４雷撃戦隊が消滅し、戦力的に半減以下の水準となってしまった。

　皇国は自領への度重（たびかさ）なる侵攻に対して厳しい非難をユーグに対しておこなうべきところだったが、自国は村田侯爵の私兵団の活躍で全く被害が出ておらず、逆に侵攻部隊が文字通り消滅してしまってしまい、本来ならお悔やみを述べるレベルであったことと、先に、大華連邦がいち早くユーグの皇国に対する侵攻は国際秩序を脅かす侵略行為であるとユーグを非難したため、ユーグへの対応は通り一遍の非難に留まり、具体的な制裁措置などは行わないことになった。皇国国内の主要ポストにユーグ、大華連邦に汚染された（・・・・・）者がそれなりの数浸透しているというのがワンセブンの見立てである。

　今回の侵攻作戦の完全失敗にユーグの後ろに控える大華連邦も混乱しているようだ。二回の作戦による主力の強襲揚陸艦４隻の喪失は大華連邦にとっても大きな痛手となっている。

　特に今回失った２隻の強襲揚陸艦に乗り込んでいたのは大華連邦海兵隊の精鋭たちだ。それが２個連隊丸々失われたことが大きい。今回の損失の補充には３年は必要だ。大華連邦の今後の惑星戦力の投射能力が大きく低下したことは否（いな）めない。

　また、大華連邦の戦力低下に伴い、連邦とスラビア共和国との境界領域に対するスラビア共和国からの圧力もかなり強化される可能性もあり、不確かだがスラビア共和国の主力艦隊が境界領域方面に集結中との情報（・・）も有るため、対抗上、大華連邦も艦隊を同方面へ移動させる必要が生じている。

　そういった国際軍事情勢には無頓着な皇都のメディアは、ショッキングな出来事や政府を批判できるような材料があれば飛びつくわけで、今回は、村田侯爵が私兵をもって敵の侵攻を阻（はば）み開拓惑星を守り抜いたと喧伝（けんでん）した。

　竜宮星系からの救援要請をまたも航宙軍が無視したことももちろん批判のやり玉に挙がっている。時間的関係で救援は不可能だったのだが、救援のそぶりも見せなかった航宙軍に対して、他の皇国外周部に存在する星系、惑星からも非難の声が多数上がっている。

　そういうことで、次のような活字がメディアに躍った。

【またも失態、航宙軍！】

【航宙軍は皇国民を見捨てるのか！？】

【村田単艦艦隊、敵侵攻艦隊を完全撃破！】

【救国の英雄、村田侯爵】

【独身、村田侯爵の華麗なる女性遍歴】

　最後のふかし記事にはちゃんと抗議するよう皇都に残しているうちの筆頭執事、代田にしっかり言っておかないといけないな。

　さらに健康を理由として航宙軍を退役したはずの俺が、元気に活躍していたことが憶測を呼び、俺の前回の活躍に嫉妬した航宙軍が俺を無理やり退役させたのだという根も葉もある（・・）うわさが流れ始めた。うわさの出所はさあどこなのだろう。俺は詳しくは知らんよ。金さえあれば何でもできるってことをワンセブンが少し前に言っていたような気もするが定かではない。

　航宙軍の広報担当は、俺の退官を円満退官だったとしきりに反論したが、事実われわれの活躍に嫉妬していたわけで、メディアから個別のインタビューを受けた将官は軍に関わる個別事項には答えられないと歯切れの悪い受け答えをしていたようだ。

　そして、先の軍法会議まがいの会議に俺を呼び出した将官連中、北条大将以下７名、北条派というべき将官は全員予備役に編入されたようだ。箸にも棒にもかからない高給取りが予備役に編入されたことは皇国航宙軍の戦力アップになるに違いない。しかも、北条家の権勢にかなりのダメージを与えることが出来た。ワンセブンの見立てでは、今回退役した連中のなかにも国外勢力の汚染が進んでいたということだった。

　ＵＲＡＳＩＭＡの拡大工事も順調で、これまで収容人員３０００名の人工惑星だったものが、大型の二重反転シリンダーが追加され、それがまもなく完成することで一気に１００００名にまで収容人員が拡大される。

　これまで、皇都に屋敷を構えていただけで積極的な動きをあまり見せることのなかった村田侯爵家が、本格的に本拠を据えた竜宮星域に対して、多くの資本が触手を伸ばし始めたようで、人工惑星ＵＲＡＳＩＭＡに事務所、テナントを構えたいとの引き合いも多数寄せられている。

　開拓コロニーの二次募集に応じる者は、時間の経過とともに開拓コロニーの実体が明らかになってくる関係上、一次募集時と比べ非常に少なくなるのが普通なのが、村田侯爵家が乙姫へテコ入れするとのうわさが流れ、惑星乙姫への移民希望者が殺到している。そのうわさをうわさではなく真実とするため、乙姫開拓コロニーの行政府に対し多額の資金を有償（・・）で貸し付けた。この資金で人口１億超えが建設の目安とされている軌道エレベーターが、間もなく着工するはずだ。これにより、惑星乙姫への移民希望者がさらに増えることが予想される。

　一歩一歩、そう一歩一歩だ。

[あとがき]

　意図したわけではありませんが一応１７話で終わりです。

　基本的には、主人公が人類宇宙の覇者になるというつもりで書き始めたものですから、そっちの方向に向かって行くとは思います。今回この作品を書くにあたり、サブタイと言う名のプロットをこのエピローグを含めて書いた後から、中身を書いていきました。これまで行き当たりばったりで書いていたものと比べ格段に優れた作品になったと勝手に思っています。内容はどうあれ、技術力は向上したみたいな。

　ワンセブンの１７ですが、第１話のあとがきで述べたように、むかし実写ロボットもので大鉄人１７（だいてつじんわんせぶん）というのがありまして、それをリスペクトしたものです。特撮技術がショボい作品でしたが内容はかなり高度な作品でした。

　なお実験艦Ｘ－７１は宇宙船です。帝国海軍の潜水艦ではありません。

[あとがき]

　また、実験艦Ｘ－７１は宇宙船です。潜水艦ではありません。

[以下宣伝]

２０２１年９月２６日現在

異世界ファンタジー『キーン・アービス　－帝国の藩屏（はんぺい）－』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055157990850（連載中）

ＳＦ『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった！？』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641（完結済み）

短編ＳＦ『我、奇襲ニ成功セリ』

http://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547（完結済み）