第3話 実験艦X-71
場所は皇国の辺境星域、
竜宮星系には、植民惑星SS-72-a、
G型恒星竜宮と
L2周辺はURASIMA建設に際しきれいに清掃されており、小惑星やデブリなどは存在しないため宇宙艦船の泊地にも適している。
現在URASIMAは皇国航宙軍が所有しており、その一角が実験部の事務所に割り当てられている。第2ラグランジュ点L2は常に乙姫の陰にあるため恒星竜宮の光の影響は受けない。いいかえれば24時間夜の世界だ。そのURASIMAの宇宙港の大型艦桟橋の一角に、航宙軍実験部が実験艦として建造したX-71と呼ばれる実験艦が係留されている。
X-71は予算削減のあおりを受け、艤装工事開始直前に工事が中止された艦を実験艦として完成させたものだ。本来巡洋戦艦として竣工する予定だった艦体の全長は360メートルあり、その艦首から艦尾までを貫く長大な軸線砲がX-71の主砲となっている。しかし、その口径は20センチしかなく、門数も3門しかない。
巡洋戦艦として建造中は単純な紡錘型をした艦体を持っていたのだが、X-71として改修された結果、胴の周りに何重にも円盤が束になった円盤群が等間隔で3か所はまっており、それら円盤群と円盤群の間には明らかにタンクと思われる円筒状構造物が6本ずつ計12本取り付けられている。実際、タンクの中には、燃料となる液体水素と推進剤となるメタンガスが充填されている。したがって、被弾には極端に
艦の3カ所の円盤群は、実は反物質生成装置で、X-71の主砲はこの装置で生成された反物質を封入した砲弾を撃ちだすことができる。反物質を封入した砲弾は対象に衝突すると内部の反物質プラズマが高速で噴出し、対象の原子核を形成する陽子または中性子と対消滅反応を起こすことで対象を破壊する。
また、対消滅反応により発生する高強度放射線は適切な防護を行っていない生物に対して致命的な損傷を与える。もちろんその前に対消滅反応が発生した対象は戦艦と言えども一撃で跡形もなく破壊され戦闘能力を喪失する。
現在、この対消滅弾の直撃に耐えられる戦闘艦は人類宇宙には存在しないと考えられている。とはいえ、対艦戦闘時の砲弾の命中率が1%内外と考えられている現状では、命中弾を得る前に撃破される可能性も高く、画期的兵器ではあるが、多数の砲弾をばらまき命中弾を得るという現在の戦術思想からいって、決定的兵器という訳ではない。なお、現在でも対艦誘導弾は使用されてはいるが、高コストであり、対宙迎撃システムに簡単に撃破されるためあまり使用されることのなくなった兵器である。ちなみに対宙迎撃システムで簡単に撃破されない対艦誘導弾は駆逐艦並みの高コストとなるため現在開発を進めている国はない。
X-71の紡錘形の艦体の後部は前部と比べある程度太くなっており、6基の主推進機、
現在X-71は、艦を制御する中央演算装置の取り付け作業が終わったところで、外部から派遣された技術者たちが最終調整を行っている。今回取り付けられた中央演算装置は皇国中央研究所に開発を依頼したものだが、実験部からの性能要求水準を大きく上回る性能を示しているという。
X-71の艦長である皇国航宙軍実験部中佐、村田秀樹は艦の指令室で、艦長専用のオペレーションデスクに付随した座席に座り、外部から乗り込んだ技術者たちが進める作業を眺めていた。デスクの上のスクリーンには、艦の各所を示す図面が映っており、黄色だった表示が、作業正常終了を示す緑の表示に順次変わっていっている。
X-71の指令室は艦の中央に作られた球状のドームの中に浮いており、その床面は艦の加減速や回頭で生じる重力の方向が常に下向きになるようドーム内を回転する。指令室が艦の中央にあるのは、回頭時の遠心力を極力抑えるためだ。現在、二重回転シリンダーの接続部にある大型艦桟橋に係留中の艦内には当然重力は発生していないため、シートベルトで体は座席に固定されている。ちなみに無重力状態の場合には指令室の床面は艦の軸線に対して垂直になるように定めている。
作業中の技術者たちはご苦労なことに無重力状態の中作業を続けていたがよくやるものだと村田は感心していた。最近の外部の技術者は航宙軍のプロパー技術者と比べて見劣りするどころか、特に今日のような特殊計算機関連の技術者の場合明らかに外部の技術者の方が技量が高い。
現在作業を行っている技術者たちのリーダーを務める山田と名のる女性などはその中でも群を抜いた技量と知識を持っている。付け加えれば、容姿も抜群であり、できれば、実験部に引き抜きたいと村田は思っている。
その外部技術者のリーダーの山田が、無重力状態の中を器用に泳ぎながら村田に話しかけてきた。
「村田中佐、作業は無事終了しました。これで、私共の作業は全て終了しました」
村田艦長がちらっと、スクリーンを見るとすべての対象区画が黄色から緑色に塗りかわっていた。起動された中央演算装置はこれからよほどのことがない限り、稼働状態が維持される。中央演算装置には何重にも冗長化された動力装置に接続されているため、不慮の停止ということは考えられないそうだ。あえて言えば、この艦が爆沈するまで稼働し続けるだろう。
「ご苦労さまです。山田さん、今までありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございます。あのう、
作業を終えたほかの技術者たちはすでに指令室から退去している。いま指令室にいるのは村田と山田の二人だけである。村田の年齢は34歳、山田の年齢は30前に見える。今は薄化粧のようで、ちゃんとした余所行きの化粧をすれば20代前半に見えるかもしれない。上目遣いで個人的なお願いと言われれば聞かないわけにはいかない。とはいえ、山田の表情から男女の話ではないことは明らかだ。
「続けてください」
「わたくし、今務めている会社を退職して、中佐のいらっしゃる実験部に就職できればと思っていまして。ぜひ実験部の人事にお口添え願えないかとお願いに参りました」
「なんと、そうでしたか。願ってもない申し出です。わたしの一存では決めかねますが、まず間違いなく採用されると思います。もしだめなら、わたしがあなたを個人的に雇いますよ、アハハ」
「えっ、わたしは中佐に永久就職したいわけではないんですが」
少し顔を赤らめて、山田が反論した。
実は100%冗談で言ったわけではなかったのだが、ここは冗談にして軽く流す必要があると思った村田は慌てて、
「冗談ですよ。さっそく人事に掛け合ってみます。任せてください。人事課長は私の同期ですので
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