第88話 王都ギルド

 フィーネに案内を頼み、改めてフェオンさんと別れた南門へと戻る。


 そこには、北へと真っ直ぐに伸びる王都を象徴する大通りがあった。

 クイートとは比較にならぬ程の真っ直ぐ、そして出来る限り凹凸をなくしたであろう石畳が敷き詰められた道は、馬車が余裕で6台は並ぶ事が出来る程広く、そしてその大通りに面した店はどこも格式高く、シンプルだが高級感を感じさせる造りをしていた。


 大通りの中央部分は、稀に豪華な馬車が走り、外側に向かうにつれて馬車は質素になっていた。


「タカヤさん?大丈夫ですか?」


 あまりの光景に、前世の都会とは違った意味の衝撃を受けていると、フィーネが心配そうな表情になっていた。


「あ…うん。大丈夫。【クイート】とは随分違うなって思って」


「ふふっ タカヤさんでも驚くことあるんですね。それと気づいてたらごめんなさい。大通りは中央に行くほど身分が高い者が使用します。常に馬車は右側通行で走ります。中央は王族と公爵家、侯爵家、伯爵家迄が使用可能。その外側は子爵家、男爵家、御用商人が優先的に使いますが、最も外側の混雑状況によっては商人であれば使用可能となります。もちろん貴族の馬車が来れば、道をすぐさま譲りますが。なので、中央部分馬車が通る時は向こう側に行くのをお待ちください。目の前で横切りますと不敬罪で捕まってしまいます」


 おそらくこれは王都初心者には重要な事なのだろう。フィーネが真剣な顔つきで、大通りのルールを説明してくれる。


「ありがとう。フィーネ。よくわかったよ。とにかく中央に馬車を見つけたら道を渡らなければいいんだね」


「はい!その通りです。じゃあ行きましょう。タカヤさん。ポシルちゃん」


 いつも通りになったフィーネを先頭に、王都の店をキョロキョロと観察しながら大通りの一本道を進む。


 2つ目の十字路で左へと曲がるとすぐに、一際大きく周囲の建物とは全く違う堅牢な雰囲気の建物が現れた。


 王都冒険者ギルド

 6階建の堅牢かつ重厚な石造りで、クイートの街のギルドと同様に、正面に大きな剣と杖と花の模様のエンブレムを掲げている。

 そして、正面中央の階段を数段上がれば木造の扉があり、そこから様々な姿の冒険者達が、途切れる事なく出入りをしていた。


「ここが王都の冒険者ギルドです。今日は大通りからご案内しましたが、買取に出すような素材を持ち歩く際は、大通りから一本入った道から来ることをお勧めします。血だらけのままさすがに大通りは白い目で見られちゃいますしね」


 そういうフィーネの説明に、確かに。と納得しつつそういえば大通りにはThe冒険者はあまり見なかった事を思い出す。


「そうだね。そうするよ」


 まぁ僕には、ポシルの全自動洗浄があるから、いつでも綺麗だけどね。


『その時は宜しくね』


 ポシルの柔らかな体を撫でつつ、この王都までの道中を思い出す。

 風呂もシャワーもない状況で、ポシルの洗浄は優秀すぎた。

 どんな汚れも、匂いも瞬間的におちるのだ。そして、さらにポシルは工夫を凝らし、王都に着く直前の洗浄なんて、洗浄後にアロママッサージ的なものをするようになり、薄めたポシル印の様々な効果を持った薬でマッサージを施され、至福の時間を味わった。


 もちろんこれはフィーネにも、秘密厳守を条件に教えてあげた。


 お陰で、長旅を終えたはずのフィーネの肌はツヤツヤ。髪もサラサラとこれ、他の人にバレるんじゃない?という状態になっている。


 赤月の護りの紅一点のユニーさんなんて、完全にポシルが原因と予想をつけて、去り際に何か言いたげにこちらを見ていたし……。

 やり過ぎは良くないよね。うん。反省しよう。


『はい。マスター。いつでも言ってくださいね』


 ポシル万能説がさらに進化した王都までの道中を思い出しながら。

 やっと辿り着いた王都のギルドへ、足を進めた。


 決して閉まることがないほど、冒険者の出入りする扉をくぐり、ギルドへ入ると。

 そこはクイートの倍ほどもある受付と、多くの職員が慌ただしく行き来きしていた。


 そのギルド内を見渡しふと疑問に思う。

「ん?思ったより小さくない?」


 見るからに多すぎる冒険者の数。その列に並ぶのを想像し少し億劫となってしまった。


 そんなことを呟いた瞬間。

 フィーネの顔が、なんだかとっても残念な人を見るような顔になっていた。


「タカヤさん……」


「えっ!何?フィーネ。その顔」


「あのですね。ここはE〜Gランクの冒険者の受付なんです。B〜Dランクは2階。Aランクは3階。Sランクは4階です。なので、私やタカヤさんは2階ですね。ここはE〜Gランクと最も冒険者の多い階となるので、だいたいいつもこんな感じですよ」


「えっ?ここだけでクイートの倍はあるよ。それが上にもあるの⁈」


 なるほど確かにフィーネが残念な顔をするわけだ…。


 自分の思い違いを反省し、フィーネに案内されるまま2階へと進んだ。









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