第87話 王都

 予定外の襲撃はあったものの、無事計画通り出発から1週間目のお昼過ぎには、2つ目の村【クリエ村】に到着した。


【ヘナ村】より大きな村ではあったが、宿のレベルや食事に大きな違いはなく、次の日の朝市ではしっかりフィーネが商品を完売させていた。


【クリエ村】を出てからは、大きな襲撃もなく、大抵の魔物は雇われた護衛に瞬く間に葬り去られ、ガタゴトと揺れる馬車に揺られながらさらに1週間が過ぎた。


 道中相変わらずポシルは、文字通り道草を食い。薬のレパートリーを順調に増やし。

 僕は僕で、戦闘の基礎力を上げる為【赤月の護り】のメンバー相手に暇を見つけては模擬戦闘を繰り返し、熟練パーティの技術をしっかり学ばせてもらった。


 こちらの能力もスキルも、だいぶ落としてはいたが、さすがは熟練パーティと呼ばれるだけあって、能力を使いこなしており、自分がいかにスキルLvだけ高くしていたのかを思い知らされる事になった。


「見てくださいタカヤさん!あれが王都【アゼリナ】です!」


 小高い丘を超えたタイミングで、前方を指差すフィーネの指し示す先を見ると、そこには高さ30m以上はあろうかと思われる白亜の外壁に囲まれ、更に2つの内壁の中央に聳え立つ城壁よりも白く輝く城が姿を見せた。


「あれがアゼリナのシュトリム城……」


「はい。あれがシュトリム城。この大陸中心です」


 そびえ立つ真っ白な城壁は見るものを圧倒せしめる。外濠が外壁を囲み外からの侵入を防ぎ、例えその外濠を埋めれたとしても圧倒的高さをほこる城壁はまさに難攻不落を思わせるのに十分であった。


「さて、タカヤ殿これにて護衛の任は終了となります。有難うございました。道中少々ハプニングはございましたが、無事王都へたどり着きました。報酬はギルドで受けとって頂くとして、是非王都でも我がフェオン商会にお越し下さい」


【王国随一の商人】。正にその姿がここにあった。

 深々と頭を下げるその所作一つ一つが実に優雅そして、気圧されるほどの1人の人間として身に纏ったオーラ。

 もともと180弱ある大きな体が2m近くある大男にも見える。道中の好々とした姿からは想像すらできない。王都フェオン商会会頭としての本気のフェオンさんがそこにはいた。


「はい。私もいずれは王都にと考えていました。今回の機会はこちらにとっても良い機会でした。これからしばらくは王都に滞在すると思いますので、何かあればよろしくお願いします」


 合わせるようにこちらも深々とお辞儀をし、がっしりと握手を交わした。


 長い行列が王城へと向かう。今回の道中に仕入れたものを報告に行くのだろう。本当に凄い人と知り合っていたのだ。


 この良縁に心の中で神様達に感謝の言葉をかけた。


「たっタカヤさん!」


 振り返ると顔を真っ赤にしたフィーネがいた。

 どうやらフェオンさんの気に当てられたらしく額には薄っすら汗をかき肩を僅かに震わせている。


「あっフィーネごめんね。だ 大丈……」


 最後まで言葉をかけるまもなく、ゆっくり崩れ落ちるフィーネを支え、そのまま膝の後ろへと腕を伸ばす。所謂お姫様抱っこだ……。


「え〜!!!!タカ タカヤさん タカヤさん」


 両手で顔を隠し、慌てふためいてはいるが、それでも抱かれた胸元にしっかりと体重を乗せるフィーネを、揺れは少なめにそして素早く、門のそばにある木陰のベンチに連れて行く。


 揺れを大きくするとちょっとフィーネの胸元が大変な事になるんだよ。そのまま膝の上にフィーネを……。


 とまではさすがに恥ずかしいので

『ポシルー。お願い出来る?』


『はい。マスター』


 分裂したポシルが、クッション程の大きさになり、ベンチとフィーネの間に入り込む。


「えっあっ 冷たい?でも冷んやりしてモチモチして気持ちいいです。すみませんタカヤさんのお膝の上になんて」


「えっ?」


「えっ?あれ?違う?ポシルちゃん!………………!!!!」


 ポシルは、顔を真っ赤にし恥ずかしさに悶えるフィーネの額にそっと触手を伸ばし、精神が安定する調合薬を垂らした。

 そしてそのままフィーネの額を何度かさする。


「スー スー スー」


「寝ちゃった?」


『はい。お疲れだったのでしょう』


 触手でフィーネの額を撫でながらポシルは答えるが、これは強制的に眠らせたんじゃなかろうか?


 ポシルさん?あまりにもテンションのおかしくなったフィーネを少し面倒くさくなったんじゃないよね……。


 肩の上にいる本体ポシルを撫で、甘えさせる。

 やはり撫でられるのは好きなようで、やっと静かに甘えられるとばかりに、撫でる手に体を擦り付けてクネクネと体を左右に振っていた。

 ホント可愛い奴。




「すみません!私ったら」


 30分程で目を覚ました(薬の効力が切れた)フィーネが勢いよく起き上がり、頭を下げた。


「いいよ。長旅も終わって気が抜けちゃったんだよきっと。疲れてたしね」


 ポシルが強制的に眠らせたとは、間違っても言えない。本当に言えない。


「私はもう既に報酬は頂いていますが、よければ王都のギルドまでご案内させてください」


「助かるよ。是非よろしくねフィーネ」


「はい!なんだか、もの凄く体がすっきりして、頭がはっきりしています。私に任せて下さい!」


 やっとたどり着いた王都。どんな城下なんだろう。どんなギルドなんだろう。未知の世界に期待に胸を踊らせ、先を行くポシル印の調合薬で心体共に回復したフィーネの後を追った。

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