第78話 母なる花
砕いたのは、ワニルに貰った身代わりの腕輪に付いていた核の部分だった。
その真っ赤な宝石のような石を解析したとき、目の前のこの結果が直感となって浮かんだ。
"身代わりの腕輪"
レプラコーン族にしか作れない装飾品
その核は90日分の太陽の光を受けながら加工され、太陽の生命力と命霊草から取り出した生命力を含む。
装備者の命の危機に反応し砕け、一度だけ命の危機を回避する。
この解析結果がなければ、この結果にはならなかっただろう。
この腕輪の核、そのものに太陽の生命力が込められている。
つまり、この命霊草が育つ条件は全て揃っていた。
「タカヤ殿……」
どのくらいの時間が経ったのか、全ての者が無言で命霊草に祈り静寂に包まれた空洞にワニルの声が響いた。
「タカヤ殿。なんと言えば。なんと言えば、我等の気持ちを伝えられるか。長い。これから先どれだけ長い年月を掛ければ、我等の命の花である命霊草を復活させられるのか。命霊草はその花自体が生命力を放ち、新たな命霊草を育てます。適した土も命霊草もない状態で太陽の光と月の光だけで命霊草を開花させるのにどれほどの年月を要したか……」
「いえ。こちらこそ説明もせず頂いた身代わりの腕輪を壊してしまい。すみませんでした。貴重な物なのに…」
「そんな事っ!」
そのまま流れでる涙を抑えられず、言葉を詰まらせるワニルにかわり、奥さんのミーナが言葉を続けた。
「タカヤ様。この巨大命霊草は命霊草の母花。レプラコーン族の象徴であり、生命力の源。ここまで巨大な花は見た事がありません。本当の意味でも我等は救われました。来年になれば、この母花の根から種が生まれ次々と命霊草が咲き乱れるでしょう。この花ほど生命力はありませんが、必ずやそれらを集めもう一度身代わりの腕輪を我等レプラコーン族最高の品質でお作りいたします。なので頭を上げて下さいませ。救われたのは我々なのですから。」
「タカヤ様!おらぁ彫刻が得意だ!いつでも装備に彫刻を彫るだ!」
「俺も!俺はアクセサリーなら任せてくれ!どんなイメージの物でも作ってみせる!」
「私、私は服飾が得意!」
「俺だって小物を彫るのが得意だ!」
ミーナの言葉に続くように、一斉に立ち上がったレプラコーン達が我先にと得意な物のアピールを始める。
そして皆、僕の手を両手でしっかりと握りその感謝の気持ちを必死に伝え、涙した。
そしていつのまにか、13人となったレプラコーンが一列に並び頭を下げた。
「「「「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」」」」
『マスター。レプラコーンさん達一人増えてます……』
「うん。僕も気付いた。一番端の女性から分身したようにでてきたよね……今」
「おぉっ!タカヤ殿のお陰で我等の新しい子が誕生した。実に4年振り。タカヤ殿と命霊草に感謝を!」
そう言うと、端にいた女性がこちらに新しい男の子を伴いやってきた。
「ナリマと言います。タカヤ様に感謝を。我等一族命霊草の元、新しい子を分霊します。この子は私の子。是非タカヤ様に名付けを」
よく似た二人だ。
分霊というだけあって、赤ん坊の期間はないらしい。
真剣な眼差しを向けられ、頭をフル回転で働かせる。
『責任重大ですね。マスター』
なんだかポシルが、プレッシャーをかけてくる……。
「……じゃあ。ライフはどうかな。」
必死に考えてこれだ。
まぁ命霊草の子って感じだしね。
「ありがとうございます!この子の名はライフ。ナリマの息子ライフです」
振り返りそう伝えると、命霊草の花びらがより白く輝き一滴の雫を葉に垂らした。
そしてその雫を掬い上げ、ナリマさんはライフに与えた。
これで正式にレプラコーン族となる。
「僕はいつでもここに来れるので、皆さんの素晴らしい装飾品をまた見せてくださいね」
予想外にレプラコーン族の神聖な儀式である名付けの儀に立ち合うと、そろそろ戻る時間となっていた。
「喜んでタカヤ殿の来訪をお待ちしております。我らレプラコーン一族心よりお待ちしております」
レプラコーンの洞窟を出るために【ゲート】を開こうとしたところで、袋を渡される。
その財布と同じ魔法袋となっている布袋の中には、白金貨を含め、相当な量の金貨銀貨が入っていた。
「これは?」
「そもそも盗賊達が新たなターゲットに狙いを定めたのは、取引に行っていた仲間が全員戻って来たからなんです。ゲースル達は取引で大金が入ると休むのではなく、全員が揃った数日後に一度商隊を襲うんです。ゲースルは気を引き締めるためと言っていましたが、手下の話では取引後に遊んでから帰ってくる手下への嫌がらせとも……。本来は商隊を襲った後豪遊するのですが、今回は襲う前なのでゲースルの金庫に残っていました。お持ちください」
袋を持って来てくれた若い女性のレプラコーンが、袋の説明をしてくれる。
どうやら取引後の大金がそのまま残っていたらしく、全員の総意でそのまま僕に譲渡する事になったとの事だった。
「ありがとうございます。ただこれは受け取れません。皆さんの4年間の装飾品の代金としてそのまま使う方が良いと思います」
何度も断っても渡そうとするのを繰り返し、やっと受け取ってもらえたところで、ポシルから肩を叩かれる。
『マスター。商隊に敵です。魔物の気配4つ。敵意剥き出しで近付いています!』
それは商隊への敵の接近を告げるものだった。
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