第69話 グーボの実力
グレイン武器工房と書かれた店の中から声を掛けてきたのは、【オーガの鉄槌】のリーダー、ジルさんであった。
店の中から出てきたメンバーは、前に会った時に見た若い長身の弓矢を携えた男性と、見知らぬ冒険者の男女が3人の計5人。
あれから大幅にメンバーが変わっている。なにかあったのだろうか。
「おはようございます。ジルさん。今日は武器選びですか?」
メンバーが大幅に変わったことを聞きたいが、いきなり聞くのも悪い気がしてしまう。
「そうなんだ。急に前にいたメンバーが里帰りしてしまってね。ほら少し大柄の人がいたでしょ。実は急に行ってしまってね。それをもう1人の女の子に伝えたら、追いかけて行っちゃったんだ。まいったよ……まさかそんな関係とはつゆ知らず。ボークにも言ってないうちに急に2人がいなくなっちゃって、急遽ね3人パーティと合併したんだ」
ボークさんというのは、例の長身狩人さんだ。
聞いたところによれば、彼も出て行ってしまったアイゲンさんの実家が大変だという事は聞いていたが、まさかこんな急にいなくなるとは思わなかったらしく。ちょうど合併出来て良かったと話していた。
「そうなんですね。あんなに順調そうだったのに。でも5人パーティになって慣れれば前よりも戦力アップなんじゃないですか」
「ははは。そうだね。彼ら3人とも優秀でさ彼らも元々4人で迷宮とか潜ってたんだ。でも1人が迷宮でね……。しかもリーダーだったから影響が大きくて、そんな感じでお互い酒場で言いたい事吐き出して合併しようって事にね」
「こんにちは。キミはタカヤさんだよね。今飛ぶ鳥を落とす勢いでランクを上げてる。僕はシール。よろしくね」
「あっ あの 私はネルです。」
「どーも俺は、ギルザよろしく!」
後ろの3人は僕を知っているようで、順番に挨拶をしてくれた。
シールさんはローブを身に纏った魔術師で身の丈より長い杖を持っている。
ネルさんは白い法衣を着た女性で、短い杖を腰に差している。
そして最後の元気の良いギルザさんは、大剣を背負った戦士で、今回はこのギルザさんの武器を新調したのを受け取りに来たとの事だった。
「よろしくお願いします。ご存知のようですがタカヤです」
「急に大勢ですまんね。ちょうど歩いているのを見かけたものでね。それにまだタカヤさんには僕のパーティに入ってもらいたいっていうのは諦めてないんですよ」
にこりと笑い掛けてくれるが、パーティメンバーが5人になっているからか、今回は本気というより社交辞令のような気がした。
「ありがとうございます。あっ皆さん呼び捨てでいいですよ。さん付けは少しこそばゆいので」
「そうか。じゃあタカヤ。また今度一緒に飲もう。ここにいるって事は何か用事があるんだろうね。引き止めて申し訳ない」
「はい。それではまた今度」
5人はこれから連携の訓練を兼ねて迷宮の浅いところに行くようで、足早に西門へと向かって言った。
そして、路地裏の何度も何度も枝分かれした道を進み目的地【グーボ防具店】に辿り着いた。
「こんにち えっ! グッグーボさん?」
扉を開けると、目の前の馬鹿でかい作業机に魂がぬけたかのように、脱力して突っ伏しているグーボさんの姿があった。
「ん……タカ…ヤか。スタミナ回復薬欲しいんだ…な」
もはやライフは0のようだ。
BOXからスタミナ回復薬小を取り出し、口元に持って行く。一口飲ませると瓶を掴み一気に飲み干してしまった。
「プハー。生き返ったんだな。ありがとうなんだな」
スタミナ回復薬小でも通常のスタミナを回復するくらいの効能はある。
ちなみに渡しておいたスタミナ回復薬なら20時間くらいぶっ続けで作業できてしまうが……。
「いえ。大丈夫です無理を言ったのはこちらですから。すみません」
「ふー。一息ついたんだな。そしてなんとか間に合ったんだな」
そういうとグーボさんの後ろからマネキンのような木の人型に装備されたコート・籠手・具足の3つの防具が出てきた。
【解析】
迷彩蜥蜴のエレメンタルコート
制作者:グーボ
継承能力;擬態・迷彩・隠密・4属性付加
付与:重量軽減・サイズ調整
鉄亀の籠手
制作者:グーボ
継承能力:硬化
付与:重量軽減・サイズ調整・硬化
跳躍猫の具足
制作者:グーボ
継承能力:瞬間加速
付与:重量軽減・サイズ調整
そこには完成予想図と全く同じ防具の実物が揃っていた。フード付きの薄い緑色のコート、そして真っ黒な籠手と具足だ。
「これが、完成した防具なんだな。それじゃあ詳しく説明するんだな」
そう言って始めたグーボさんの説明からこの防具達の圧巻の能力が明らかになっていった。
まずはコート。
カモフラージュリザードという、ダンジョンの中層に出てくる魔物である。
周囲の風景に擬態して奇襲をかける厄介な蜥蜴の革を、貼り付けるとともに編み込んだ金属にも練りこんである。
そのスキルである擬態・迷彩・隠密のスキルを継承され、身に付けて少量の魔力とともに意識すれば周囲の風景と同色となり気配も薄くなるというもの。
色は、現在迷彩蜥蜴の基本色である薄い緑をしているが、何色にもなるという優れ物。
そして、破格なのが必死で集めたスライムの核での継承能力である4属性付加。これは基本4属性に対する耐性、威力自体も増幅させる他、周囲の魔力から暑い時には水属性と風属性が、寒い時には火属性と風属性が働き温度調整もしてくれる。というものだった。
次の鉄亀の籠手
これはアイアンタートルという、同じく迷宮や岩石地帯にいる魔物で、周囲の土属性魔力を集め自身を硬化させ防御力を上げる力を継承。
また付与の硬化は、籠手自体の密度を上げる事での硬化で2種の硬化で防御力を上げている。
また短剣を収容できるように工夫され、事前に見せていた短剣であれば籠手に取り付け攻撃が出来る事に加え、ギミックを操作すれば短剣を飛ばす事も出来るように工夫されていた。
最後の跳躍猫の具足
これも魔物素材が使われている。スプリングキャットという一瞬だけ短距離跳躍や加速を使い、攻撃や逃走をする魔物で、その中の瞬間加速を継承されている。
意識して地面を蹴る事で、加速出来るという素晴らしい能力が継承されていた。
素晴らしい‼︎
「凄いです!凄いです!グーボさん」
つい興奮してしまい。グーボさん手を両手でしっかり握り、ブンブンと上下に振って喜びを表してしまう。
なんという発想。なんという完成度。邪魔しないどころか、補助してくれるなんて!
「いや〜。そんなに喜んでくれると嬉しいんだな。補修や調整が必要になったらまたくるんだな」
「はいありがとうございます!これから護衛依頼で王都に行くので、間に合って本当に良かったです」
お礼をいい。金貨55枚の支払いをする。
実はもう少し高かったのだが、スタミナ回復薬を20個、死蔵されていたゴブリンの武器、各種魔物素材を売ってくれないかという相談があり、支払いと相殺した。
スタミナ回復薬に麻薬のような常習性は無いはずなんだけど……。大丈夫だよね。
まあポシル印だし大丈夫か。
目指すは王都!
「それではありがとうございます!行ってきます!」
「うん。頑張るんだな〜」
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