第70話 シンクロ
「ふっふふん ふっふふん はぁー いいねー」
『御機嫌ですねマスター』
肩の上に乗ったポシルを撫でる。そう僕は超ご機嫌だ。
新調した迷彩蜥蜴のエレメンタルコート、鉄亀の籠手、跳躍猫の具足を身に付けて、待ち合わせ場所である北門に向かって走っている。
格好はすでに新人冒険者のそれから、いっぱしの冒険者といって過言ではない。
そして、新調した防具。
まずは【迷彩蜥蜴のエレメンタルコート】
形はフード付きのロングコート。
シンプルな形だが、襟もありスタイリッシュなイメージのロングコートで、袖口が少し太めに作ってあり、籠手をしていても袖の中にしまえるようになっている。
今は薄緑のままだが、夜になったら黒にしようと思う。
まず驚いたのが、着心地だ。繊維状の金属にピンとこなかったが着心地はアンゴラのような肌に優しくフワっとした着心地で、耐久性は特殊な金属繊維が編み込んであるので下手な防弾チョッキよりも高い。
試しに、ポシルの硬化した触手で突いてもらったが、全く衝撃を伝えなかった。
そして、僕が鼻歌混じりで走っているのは、この具足のお陰だ。
軽く加速を意識して地面を蹴ると、一瞬にして加速する。引っ張られるような感じもなく、スムーズに移動が可能で連続的に使っている今は、レーシングゲームの加速パネルを踏み続けているような気持ち良さだ。
ただあくまでも蹴り込まないと発動しないので、空中での加速は少しコツがいる。
途中街行く人に、 “ギョッ”とされてしまったがそこは反省だ。調子に乗りすぎてしまった。
『もう着きましたね。マスター』
「うん。あっという間だったね。あっフェオンさん達もう来てるや」
北門に着くとすでに、フェオン商会一行と赤月の護り、そして見知らぬ3人組パーティが出発の準備をしていた。
軽く挨拶を交わし、荷物を積んでいた【赤月の護り】のリーダー。シャウさんに話しかける。
「すみません。遅れてしまいましたか?」
自分が一番最後のようで、時間を間違えたか不安になる。
「いや。元々タカヤくんには時間を遅らせて伝えていたんだよ。積荷の準備もあるしね」
「「心配するな!時間通りだ!」」
シャウさんから時間の事を聞いたすぐに、結構な強さで背中を両側からバシバシと叩かれる。
振り返ると、大楯タンクのガイファさんとクオさんがいた。
「「がはは。ほっそい。ほっそいぞ!しかしこのなりで、あの強さ!王都までよろしくな」」
まったくブレずに完全シンクロで話すガイファさんとクオさんは、一卵性の双子で2人とも重量級装備に大楯を両手に持つスタイルで完全に意思の疎通が言葉無しで出来るほど共鳴しているらしい。
「慣れないと、少し不思議だろうね。2人で喋っているのに、聞こえる言葉は1つだし。まぁ最初に会った時の挨拶の一つだと思ってよ」
「はい。よろしくお願いします。ガイファさん、クオさん」
「「おう!」」
「それより、だいぶ装備が変わったね。新調したのかい?」
流石に中堅の冒険者らしく、シャウさんは装備を上から下までキラキラした表情で、観察している。
「はい、工房街のグーボさんのところで造ってもらいました。無理言って依頼に間に合うように造ってもらったんで初お披露目です」
興奮気味につい話してしまったが、目の前の3人の様子が少しおかしい。なにかおかしな事言ったかな?
「タカヤくん」
「「タカヤ!」」
「はい!?」
「「「グーボさんと言ったか?!」」」
3人がシンクロした!
どうやら話を聞くと、グーボさんは高ランクの冒険者の間では幻の防具職人と言われていて、本当にいるのかと7不思議的な扱いになっていたと言う事だった。
数多くの冒険者が、その噂を頼りに、工房街を探したが見つけることができずに、幻の鍛冶屋として定着したと言うことだった。
「あー。そうなんですね。まぁ確かに見つからないと思いますし、紹介状が無いと駄目っぽいです」
装備を見て、一流だと感じたようで、僕からは紹介出来ないと伝えると、3人とも地団駄を踏んで悔しがり、自力で紹介される方法を見つけ出してみせると意気込んでいた。
帰ったら、紹介の基準でも聞いてみよう。
なんか可哀想だし……。
「あ…あの」
3人とはとりあえず別れ、後方の積荷の手伝いをしようと向かっていると、後ろから声をかけられる。
後ろを振り返るとそこにはフードを被り、下を向きモジモジしている女の子がいた。
……えっ?なんで下向いてるのに、女の子って分かるかだって?
そりゃあねぇ。
フードを被ってようが、服を着ていようが女の子って分かる部分がですね。
効果音的には、下を向いてるからたゆんって感じ?
モジモジして、両腕を胸の前に組んでるから持ち上げられて余計に強調されている。それを見て、男だと思う人がいたら逆に教えて欲しいです。はい。
はっ!しまったあまりの衝撃にキャラ崩壊を……。
よし、落ち着こう。
「はい。どうかしましたか?」
たぶん普通の顔に戻れたと思うが。冷静を装って少女に返答する。
「わた 私は、フィーネっていいましゅっ」
あっ噛んだ。噛んだな。すっごい小刻みに震えてるし、これはスルーが正解か?
「こんにちわフィーネさん。僕はタカヤって言います。こっちは従魔のスライムでポシルって言います」
『よろしくお願いしますフィーネ様』
「……えっ⁉︎」
目の前の少女は、突然頭の中に響いた声に驚き、反射的に震えの止まったその顔をあげる。
上を向いた反動で、フードが外れる。
そしてそこには、目を見開いた美しい白髪の少女がいた。
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