第68話 勧誘
フェオンさんの依頼を受けた事を伝え忘れ、走り去ってしまったセリナさんを追いかけようと外に出たが結局見つからず再びギルドへと戻ってきた。
セリナさんの事を尋ずねようと中へと入り受付へと進むと、後ろから声を掛けられる。
「 なぁあんたソロのタカヤだろ?」
突然呼ばれ振り返ると、そこには冒険者らしからぬぽっちゃり体型をした若い男が立っていた。
年齢は10代後半くらいか。
身に付けているものはどれも一級品だとすぐにわかるが、何処と無くゴテゴテとした装備で、ぽっちゃり体型以上に鈍重なイメージを与える。
「私はマネリー=トーマス。トーマス子爵家の次期当主だ。私のパーティに入らないか?私はこれより迷宮に潜り20層を目指す予定だ。報酬はそれなりに用意しよう。」
大して長くもない切り揃えられた前髪を後ろにかき上げ、首を振る。
同時にあまりに余った頬と顎の肉がブルんと揺れ、只でさえ痛々しいが、更に色んなものが台無しになっていく。
「すみません。お断りさせて頂きます。これから指名依頼で王都まで行くので。それにパーティメンバーは自分で探す予定なので」
深々とお辞儀をし、これ以上関わると面倒だと思い、足早にギルドを出て行く。
そう言えば、この日は実に2組にパーティに誘われ、今ので3組目いや【赤月の護り】を入れれば昨日から4組目。
恐らくは、Cランク以上の実力があるソロなんて恰好の勧誘対象なんだろう。
ギルド内だけではなく、外でもパーティに誘われ、全て断っている。
決してパーティに入るのが嫌なわけではないが、誘い方が雑だったり、明らかに歳下の僕を最初から舐めてかかり強引に誘おうとするのだ。
「出来れば同年代。実力も今の時点で同じくらい。出来ればCかDランクぐらいあればいいんだけど」
【赤月の護り】からのパーティへの誘いは、ゴーバとの一件の直後に【オーガの鉄槌】のリーダー、ジルにパーティに誘われた時以来だったが。
体調が悪くなる事はなかなった。
その後の3組のパーティに誘われてもしっかりと判断し、はっきり断れていた。
「そう言えばセリナさんの事、聞かずに出てきちゃった・・・。今はあのお坊ちゃんがいるし辞めておこうかな」
その後の2日は二週間の準備とばかりに、屋台で様々な食べ物を購入しBOXに保存。
服など着替えも一式買っておいた。
そして、今一度スキルを確かめるための基礎的な訓練をしながら過ごしていた。
結局夜になって再びお礼のために宿にやってきたセリナさんに、依頼の事を伝える事ができしばしここを離れる事は伝えられた。
当日は最初の村まで16鐘に着く予定という事で、出発は12鐘。
朝起きるとコックスさんが、大量のサンドイッチを作ってくれていた。
「おう起きたか。宿泊代をかなり先まで貰ってるからなこれはその足しだ。道中配るのもよし、自分で食べるのも良し。とにかく持って行ってくれ。その鞄なら充分入るだろ?」
「はい。喜んで頂きます。わざわざ有難うございます。食べるのが楽しみです」
一つ一つ鞄にしまい込む。この次元収納鞄は時間停止もついてるから保存もできる。本当に食べるのが楽しみだ。
この2日の食事も本当に素晴らしいものだった。
お馴染みクッコ鳥は照り焼きにされ、艶やかにテリが光る鶏肉を一口、口に運べば醤油の利いた甘辛いタレと鶏肉の油がしっかりと口の中で混ざり合い、500g以上ある鶏肉の塊が一瞬で腹のなかに消えていった。
次の日の夕食は、オークの肉を揚げたものが出てきた。
そう豚カツだ。元の世界と全く同じではないが、パンを細かくしたものを下味を付けた肉に付け、こんがりとキツネ色になるまで揚げたものなので、その姿はまごう事なき豚カツその物だった。
サクサクの衣にジューシーな豚肉を思わせるオーク肉のちょうど良い歯応えと、オーク肉に含まれる油は旨味や甘味を多く含みさっぱりとした油で胃もたれする事なく、合計5枚以上お代わりしてしまった。
「しばらくこの味が食べられないと考えると、本当にゲートで帰ってきたくなってしまうよ」
『そうですね。マスターはコックスさんの料理を食べている時、本当に幸せそうな顔をしていますしね。私もマスターの魔力を頂いている時が一番幸せです』
透明になって肩にいるポシルが、嬉しそうに揺れる感覚を感じる。
集団行動をするにあたり、ポシルをどうしようか迷ったが余程のことがない限りは緑色のグリーンスライム形態のまま、アシストに徹して貰うことにし、フェオンさんには、特殊なグリーンスライムをテイムしており補助と攻撃役が出来ると伝えておいた。
「相変わらず凄い音だな」
出発前にグーボさんから防具を貰う為に、西区の工房街に立ち寄る。
工房街は冒険者達にとって自分の武器や防具を探す重要な場所であり、ある程度のランクになると街中の武器防具店ではなく、直接この工房街の職人に依頼することが多くなる。
その為、工房街の大通りには各職人の直売店があり、その武器を試して自分に合う職人を探す光景がちらほら見られる。
もちろんそこには、グーボ防具店の直売所はなく、やはり紹介されなければグーボ防具店を見つけ出すことも出来ない。
「タカヤさんじゃないですか!」
大通りを歩いていると、グレイン武器工房と書かれた店から声を掛けられる。
店内を見るとそこには、【オーガの鉄槌】のリーダー、ジルさんがいた。
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