第60話 魔石?

 視界を遮っていた砂埃が晴れると、そこには、体の一部を水路につけ驚くべき早さで瓦礫によって、開けられた多数の穴を塞ぐロットブルースライムの姿があった。


 同時に、体から離れている破片が次々と本体に戻っているところを見ると、ある程度は瓦礫が当たる前に分裂によって切り離していたんだろう。


「厄介な」


 圧倒的な回復能力。


 これが恐らくは【吸収(水・腐敗物)<Lv5> 】の力だろう。


 ここには水も、水と共にに流れる腐敗物もある。

 奴が成長するのにうってつけの環境だろう。

 だからここまで強くなれた。


「でも魔法で作り出したもので、直接攻撃をするんじゃなければ、ダメージを与えられるんだな」

 距離を置くために、後ろに下がる。


「がっ…!な… に……」

 通路に点在する。無数の水溜りの一つに、足を入れた瞬間。


 強烈な痛みが足から全体へ広がる。


【解析】

 踏み入れた水と、周囲の水溜りを解析する。


 ロットブルースライムの分裂物

 ※接触した有機物を腐蝕させる。

 闇魔法【ロケートペイン】付加



「くっそ この水溜りは奴の分裂物か……」


 踏み入れた右足の靴は溶けすっかり靴底がなくなっている。


 足の裏が腐蝕ダメージによってただれ、闇属性の魔法を付加して、激痛を全身に与えてきている。


 先程の瓦礫での攻撃によって、四方に飛び散った体をあえて回収せず逆にトラップとして利用してきた。


 激痛によって出来た一瞬の怯みの瞬間。

 新たな激痛が腹部に走る。


 その衝撃に、通路の壁まで飛ばされ叩きつけられる。


「いてぇ。これは少しまずいかな。でもありがたい……」


 叩きつけられた壁は、ちょうど通路の曲がり角、その角にはポシルが用意してくれた。今できる最上級の回復薬が8本置いてあった。


 すぐさまそのうちの一本を、腹部と足に掛け、残りを飲み干す。


 ものの数秒で、足のただれは治り、破れたシャツをそのままに、腹部の腐蝕も元通りとなった。


 ロットブルースライム

【Name】ー

【HP】 1920/2850

【MP】 210/400

【力】 10

【体力】 780

【器用】 390

【知力】 20

【素早さ】20

【魔力】 160


『ありがとうポシル。早速役に立ったよ』


 度重なる攻撃に耐え、分裂による回避やトラップへの活用と多少HPと体力は減ってはいるが、ここは少々こちらに部が悪い。


 相手はこの環境をフルに使い、攻撃も回復も自由自在ときたもんだ。


 相変わらずの巨体を左右に揺らし、あざ笑うかの様に触手を振り回している。


「ポシルならふよん ふよんとかぽおぽよって効果音がお似合いだけど、お前はぐじゅるかぐちゃりか。どちらにしても可愛くないんだよ」


 相変わらず水路に体の一部を入れ、水を吸収し続けている。


 回復はさっきまでより落ち着いたが、それでもこの環境は厄介極まりない。


「それなら、この環境を使えなくするまでだ」


 魔力を練り上げ、冷気に変換する。


【凍気】


 周囲の空間の温度を急激に下げことで、轟々と流れている水流の表面をしっかりと凍らせる。


 同時に、床に撒かれているトラップの水溜りも凍結させる事で、無効化していく。


 3m近くあった体の横幅?も今では1m50cm程になり、回復手段を失ったロットブルースライムは暴れる様に触手を振り回し腐蝕液を撒き散らしている。


「おりゃ!」


 無限水袋から取り出した水を次々と凍らせ槍状にして投擲していく。

 ピロン!

【スキルー投擲ーを取得 】

 投擲Lv1

 ※投擲した物の命中力・威力が良くなる。


 久々の新規スキルの取得に、喜ぶ間も無く、次々と投擲される氷の槍。


 溶けて吸収が始まる前にかたをつけなくてはならず、【魔手】も使いながら、氷の槍を20本程作ったところだった。


 水もない、腐敗物もない。

 分裂物も凍らせ、補充が効かない。


「やっと先がみえてきた!」


 明らかに分が悪いと判断したのか、素早さの少ないその体を、懸命に前後に揺らしながら水路の氷を渡り、向かいの通路へと逃げようとしている。


 その体もすでに80cm程まで小さくなり、核の場所も露わになっていた。


「これで終わりっと」

 氷の槍をサザエ用の三叉モリの様な形にし、核に向かって投擲する。


 最後のガスが抜けスライムの体が飛び散り、残ったのは三叉に挟まれた直径20cm程もある濃紺紫色の核だけであった。


 ピロン!

 ピロン!

 ・

 ・

 ・


「終わったー。核を抜けば終わりとはわかってたけど、中々面倒だった。核?ていうか魔石だよな?なんで核って言われてんだ?」


 少々の疑問を感じながらも、ポシルに討伐終了の念話を飛ばす。


『マスター!終わったんですね。良かった。ご無事ですか?』


『大丈夫だよ。ありがとう。ポシルの薬のお陰で命拾いしたよ』


『本当に良かったです』


『ところでなんでスライムの魔石って、核って言われてるか分かる?」


『はい。スライムだけではないですが、スケルトンやスライムなど、通常では倒しにくくて、魔石を壊したり外したりすれば倒せる様な魔物の魔石を核というようです。もちろん、どの魔物も魔石を破壊されれば死んじゃいますけどね』


 意外にもわかりやすい理由があった。


 なるほど、確かにスケルトン系は再起不能になるまで骨を破壊し尽くすか、光属性の魔法や火属性の魔法や、その付加のついた武器で倒す事が出来なければ、元心臓部分に見えてる核を破壊しろと書いてあった。


 その代わり、一番高値で売れる魔石が喪失するため、骨折り損のくたびれ儲けだとも書いてあったっけ。


『それよりもマスター。お時間は大丈夫ですか?ご指示通りブルースライム3体分魔石3個、回収済みです』


 時間は16鐘半。

『ギリギリだね。今から転移門で飛んで、支度したいけど先に水浴びかな。体と服が臭すぎる。それにどちらにしろ。服も靴もボロボロだしね』


『でしたらマスター。地下水路入口まで来てください。私によい考えがあります!』


 レベルUPの確認も魔石の確認も後回しかな。


 今は、嬉々としているポシルに少々期待と共に不安を感じるが、合流するためにまずは入口に向かおう。


【転移門】

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