第56話 職人

 セリナさんに明日はギルドに顔を出すことを約束し、喫茶店で別れた。


 さすがにあの後は、黄茶にはセリナさんは口を一切付けず。ポットに入った分のお茶は美味しく僕が頂きました。


 別れ際、宿に寄った際ラーダさんから手紙を託されたらしく、セリナさんから封蝋の押された手紙を渡された。


 封筒の差出人は《フェオン》とサインがされており、確かに封蝋の紋章もフェオン商会の馬車についていた《稲と麦の穂が交わりその真ん中にグリフォンのようなシルエットが引く馬車が描かれた紋章》と同じであった。


 そして封筒を開けると、手紙が入っており挨拶と共に文の最後に【本日17鐘から18鐘の間でしたらお話を伺えます】と書かれており、前にフェオンさんを尋ねた宿屋の地図が入っていた。


 そしてこの地図を見せれば、通じるため地図を忘れないよう念押ししてあった。


 時間はまだ11鐘か。

 10鐘前からこの喫茶店で黄茶を楽しんでいたが、まだ時間はある。


「ポシル。防具屋に行こうと思うんだ。僕もランクが上がって、より強力なモンスターの依頼が増えるだろうからね」


『そうですね。さすがにマスターのその装備は、昨日今日に登録した新人の冒険者の皆様と同じ装備ですし、今のままでは、私も心配です』


 確かに今の装備は、以前セリナさんから防具屋を紹介してもらったが行けず。


 ゴーバが絡んできたために、ギルドショップで揃えた初心者用の革鎧で、最低限の急所しか守られておらず。今後高レベルの魔物の攻撃は、全くもって防げないであろうことは明白であった。


 だからこそ潤沢に予算のある今、自分専用の装備を揃える必要があった。



 防具屋の名前は《グーボ防具店》。


 西区の工房街にあり腕は良いが人見知りが激しい人物のようで、紹介状がないとまず会ってももらえない人物だと、ギルドの酒場の店長から聞いていた。


 手元には一応セリナさんからの紹介状はあるが、果たして会ってくれるだろうか。


 喫茶店から出て、西区の工房街へ歩いていく。

 鍛冶屋が多く常に大きな音を響かせていることから、西区の中でも住宅地よりさらに外れ、街の南西角に様々な工房や鍛冶場が集中しているエリアがある。


 ここが俗に言う、【工房街】生粋の職人達が己の腕一つで全てのプライドを掛け、日夜最高の武器や防具、アクセサリーを作る為腕を振るっている。


 《グーボ防具店》の大体の場所はセリナさんからメモを貰っていたが、正直今僕はというと…


「迷った……」


『迷いましたか。マスター』


 今僕は現在進行形で迷っている。


 そもそもセリナさんからのメモは、工房街の外れ辺りに丸がつけられ、矢印が引っ張られている程度で、まさか工房街がここまで複雑な場所だとは想像すらできなかった。


 区画などまるでなく、とにかく空き地に工房を建てました。というような場所で、歩いているうちに北か南か、方角さえ狂ってくる迷路のような場所だった。


 そこら中で大きな音が鳴り響き、場所を聞こうと一歩敷地内に入ると、丸太ほどもある腕をしたドワーフのおっちゃんが、大鎚を振り下ろしながら睨みつけ、とても聞けるような雰囲気ではなかった。



『マスター。ありましたよー』


 ポシルから念話が入る。


 あれから自分で探すのを諦め、ポシルに100体に分裂してもらい、メモの丸の中をくまなく探すため散って貰っていた。


 《グーボ防具店》

 こう書かれた看板は確かに存在した。

 細道の中のさらに枝分かれした道を行き、これ道?という道を3回ほど入った場所に存在していた。


「これはわからないな・・・」


 何故こんな所にあるかわからないが、確かにこれなら一見さんは来れないだろう。


 中に入るため扉に手をかける。


 開いた瞬間、中から凄まじい熱気が溢れ出てきた。


「こんにちはー。ギルドからの紹介できましたー」

 作業は今はしていないらしく、声は工房中に響いた。


「ちょっと待つんだな!すぐいくんだな!」


 暫くして現れた男は、これまで見てきた工房のドワーフやエルフとは明らかに違っていた。


 丸太のような太い腕。

 分厚い胸板は変わらない。


 しかしその男は、通常のドワーフとは明らかにサイズが異なっていた。


 身長は、2mいや2m10cm位はあるだろうか、顔は堀の深めで長い髭というドワーフの特徴を残しつつ、全体的には熊を思わせるような顔付きで、耳も人種のものではなく熊の耳をしていた。


「お客さんとは珍しいんだな。おらはグーボ。ここにくるってことはセリナの紹介なんだな」


「はい。セリナさんの紹介できました。タカヤと言います。Cランクの冒険者をしています。よろしくお願いします」


 どこかおっとりとした雰囲気を持つ熊?獣人のグーボは客用椅子の2回り以上大きな椅子に座っている。


「ここは防具店。武器は一切作らないんだな。それでもいいか?」


「はい。元々防具が欲しくてセリナさんに紹介頂きましたので、お願いできますか?」


「だなだな。こちらこそ宜しくなんだな。それよりもタカヤは気にならないのか?」


 おっとりとした喋り方に、柔和な表情をしていたグーボさんの顔から急に笑顔が消え、少し疑うような眼になっている。


「何がですか?」


「いやぁ何がって、おらが熊の獣人とドワーフのハーフって事だ。獣人の鍛治仕事はそのー なんと言うかあまりよく思われていないんだな」


「えっ!そうなんですか⁉︎」


 話を聞くと、ドワーフである父親と、熊の獣人である母親は鍛冶屋兼冒険者として活躍後、父親の鍛治職人としての独立を機に結婚。


 グーボが生まれたとの事だった。


 しかしドワーフの村では、獣人とのハーフであるグーボは認められず、結局家族で村を出て、違う村や町を転々としながら最終的に、この街に流れ着いたのだと言う。


 しかし、父親からの技術を全て引き継ぎ、いざこの工房街で店を出そうとしたが、ドワーフの職人達に認められず、結果人目のつかないこの路地裏の片隅にて工房を開かざるをえなかったと言う事だった。


 そんな場所に、客がふらりとくるわけもなく、結局ギルドや実際防具を作った人からの紹介頼みという形になり、同時に人見知りが激しいとの噂が立ったと言う事だった。


 しかし、父親譲りのセンスに母親譲りの身長から振り下ろされるハンマーは金属に特殊な柔らかさや加え、防具としての強度を生み出し、防具鍛治師としてトップクラスの腕の職人で、獣人とのハーフなぞ微塵も気にしないほどのポテンシャルがグーボにはあった。

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