第26話 疑念

 「ポシル」


 慌ただしく叩かれるドアに緊急性を感じ、ポシルを縮小化し、透明のまま肩の上に待機してもらう。


「冒険者のタカヤ!タカヤはいるか!」


 ドアの向こうから、知らない男がタカヤに呼びかける。

 ドアを開けると、男は高圧気味に用件を切り出した。


「Fクラス冒険者のタカヤだな。貴様に同クラス冒険者スズネの拉致容疑がかけられている。今すぐ詰所に出頭願おう」


「はっ⁈」


 あまりにも予想外の展開に、理解ができず固まってしまった。意味が全くわからない。スズネが誘拐?


「ちょっと待ってください。全く状況がつかめません。まず貴方は誰で、僕が何をしたというんです。それにスズネが誘拐されたってどういう事ですか⁈」


「私は【クイート】の衛兵を務めるケーゼだ。先程、冒険者のスズネが男に拉致され、街の外に連れ攫われた。詳しくは詰所で確認させてもらう。今すぐ北門詰所まで来てもらおう」


 意味がわからない。

 なんなんだこの展開は、そもそもこの街に来て数日だぞ。


 いや、だからこそか。僕には信頼も信用もない。

 ここはついていくしかないかな。


「分かりました。詰所にいきます」


 混乱の面持ちで、連行されるように階段を降りる。


「タカヤ!しっかりおしっ!あんたが悪い事に関わっていないことは私らがわかってるんだ。安心して確認が終わったら帰っておいで」


 兵士に行く手を阻まれているラーダが、困惑している僕の顔を見て声を掛けてくれる。

 その後ろでコックスさんも大きく頷いてくれた。

 ほんとここは暖かい。お陰で少し冷静になれました。


「はい。行ってきます」


 詰所にいくと、衛兵3人とその纏め役である兵長が待機していた。


 こちらの言い分など聞く気がないのか、すぐさま用意されていた椅子に乱暴に座らされ、尋問が始まった。


「冒険者のタカヤで間違いないな」


 兵長自ら取り調べをするようで、他の3人は出口を含み周りを囲っていた。


「はい」


 バンッ!


 返事と同時に机が叩かれる。

「同じFランクの冒険者であるスズネをどこにやった!」


 犯人に居場所を吐かせるかのような剣幕だ。


「何の事です!今日クエストの後、スズネと別れてからは、スズネに会っていません」


「貴様!しらばっくれるな。スズネの誘拐時に、仲間の一人がタカヤと呼ぶのを聞いた者がいる。タカヤなんて名前は、この街にはお前しかいない。貴様は最近街周辺に出没している盗賊団の仲間だろうが、アジトを吐け!今すぐにだ」


「まず誰が僕の名前を聞いたっていうんです。なんなら僕は盗賊団がケーゼと呼んでいるのを聞きました。と言うのと同じレベルじゃないですか!」


 横にいるゲーゼがビクっとなり、引き合いに出された事で青筋を立てる。


「貴様!言うに事欠いて、衛兵を例えに出すとは!」


 兵長が急に立ち上がり、顔面を思いっきり殴打してくる。


「がっ!」

(マスター!)


 その後も倒れ込んだ僕の腹も蹴り上げ、荒い息を整える。


 一瞬ポシルから殺気が漏れるが、念話で落ち着かせる。

 そしてもう一度蹴り上げようとした瞬間、


「ちょっと待ってください!」

 そんな声とともに、門兵のギランが飛び込んで来た。

 タカヤのことを横目で確認すると、兵長に視線を戻した。


「何をやってるんですか、タカヤには話を聞くだけだと言いましたよね。これではまるで犯人扱いではないか!」


「貴様には関係なかろう、こやつは最近この街周辺を荒らしまわっている盗賊団唯一の手掛かり、貴様ら門兵は門だけを監視しておれ」


 兵長の言い草に、今度はギランが額に青筋を立てる。


「兵長殿は私のスキル、《悪意感知》はご存知ですよね。彼には全く悪意がない。どちらかと言うとあなた方の方が、この少年を利用しようと悪意を感じるぞ!」


「グッ 貴様。唯一の手掛かりかもしれんのだぞ、何かあったら貴様が責任を取るんだな!」


 そういうと、衛兵3人を伴い出ていった。

 どうやら尋問は終わりのようだ。

 それにしても妙に簡単に引き下がった。立場は衛兵の方が上っぽいのに。


【Name】ギラン

【age】 55歳

【職業】 1.剣豪※剣士Lv30後上級剣士を経てLv60でクラスUP 力 素早さ 器用に補正 2.上級兵士※HP 器用さに補正

【Lv】 68

【HP】 550/550

【MP】 190/190

【力】 420

【体力】 230

【器用】 295

【知力】 45

【素早さ】195

【魔力】40



【スキル】

 ユニークスキル

 悪意感知

 ※対象の者が護るべき対象に悪意を抱いているかが分かる。


 ノーマルスキル

 剣術<Lv7> 危険察知<Lv3> 気配察知<Lv3>

 心眼<Lv1>

  ※自分に向けられた攻撃に対する感覚強化 回避率上昇 強化はLvに依存する。最大Lv10


 あーこれは逃げるな。こりゃ勝てない


「おい。大丈夫か」

 ギランが肩を抱き起こしてくれる。


「いつつ。大丈夫です。でも何が何だか」


「ああすまんな。ここ最近街周辺に盗賊団が出没して、旅人や商人が狙われたんだ。人攫いだな。そんな中起きた誘拐に、タカヤが絡んでると情報が入った。それをたいして確かめもせずに…。すまんな」


 やっと少し事情がわかってきた。

 どうやらそもそも僕を誰かが嵌めようとしてるってことだ。


 スズネが狙われたのも、きっと僕とパーティを組んだからだな。なんとかしないと。スズネが危険だ。


「いえ大丈夫です。それよりもスズネはどうなったんでしょうか。ギランさんはスズネを見たことありますよね。僕と一緒にパーティを組んで今日クエストを受けに行った女の子です」


「あぁあの時一緒にいた娘だったか。すまんあの時、彼女のチェックはミレークが担当していて、顔と名前は一致しないんだ。ただ誘拐されたとされているのは、今日の21鐘前。冒険者仲間と一緒に食堂で食事を取って、宿への帰りに攫われたらしい。一緒にいた少女は抵抗し、なんとか逃げたんだが」


 ギランが淡々と説明するが、腑に落ちない。


「街の外に出たと先程の衛兵が言ってましたが、何故ですか?」


「ああ。少女を背負った男が、街の外で目撃されている。東門で喧嘩騒ぎがあり、その対応の隙に抜けられたようだ」


「じゃあその人たちもグルじゃないですか!その人達はどうしたんですか⁈」


「悔しいが、その時はただの喧嘩だと思われていたからな軽い注意だけ受け、解放されてしまった。今捜索中だが、おそらくは見つからないだろう」


 あまりの杜撰さに唇の端を強く噛む。鉄の味が口いっぱい広がり、焦りが生まれる。


「わかりました。僕も探してみます」


 詰所を出て、東門に走る。

 少なくとも今ある情報で唯一、彼女が目撃された場所だからだ。


 街の外に出て彼女が目撃された場所に向かう。


「やるべき事は彼女の発見」


 そのための新魔法を開発する。


 体全体に魔力を循環させる。

 開発するのは追跡魔法、イメージするのは警察犬での追跡。


 風に漂う対象者スズネの匂いや痕跡を探り、集め道に示す。対象者の痕跡を一本の光の道とする。


 鞄からスズネに貰った絹糸を取り出す。

 この中のスズネの匂い、そして周囲の同じ匂いのするものを集積する。


 絹糸から風が舞い、周囲に散っていくイメージ。同じ匂い、対象者の痕跡を探しだし、道を示すイメージを固め魔力を活性化させ眼に集中させる。


【追跡眼】!


 周囲に散った風の中に一本の薄い緑色の道が現れる。

 その道は東門から続き、東の街道から外れ南の森に続いていた。


「見つけた!この痕跡を辿れば、間違いなくスズネがいる。待っててねスズネ!」

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