第27話 誘拐犯

 魔物や盗賊団の見張りを避ける為、《気配察知》と《気配遮断》を使い、【追跡眼】が指し示す盗賊団のアジトへと向かう。


 森に入って30分

 追跡眼が示す薄い緑の線は、20m先の岩山の隙間に入っていった。


「見つけた」


 恐らくここが盗賊団のアジトなのだろう。

 気配察知で探ると、岩山の隙間のすぐ先に4人の気配が点在し、隙間の先が広くなっていることがわかる。

 このまま隙間の先が細くなってると勘違いして入れば、間違いなく、刺し殺されてしまうだろう。


 ここまで【追跡眼】《気配遮断》《気配察知》を使い続け消費したMPを確認する。


【Name】 タカヤ

【MP】 430/1820

 ポシルに吸収させたからか、また少し上限が上がってる。


「ポシル。念の為、分裂体を今から【クイート】の街に向かって移動しておいてくれないか。そしてギランさんにここの事を伝えてほしい。時間が限られてるからポシル本体は僕と移動。分裂体は街へ移動と、同時進行で行こう」


『分かった!ここからだったらリミットタイムまでにまだ余裕があるの』


 透明のポシルを発見できるような魔物は、いないだろう。

 あとは移動速度の問題かな。いくらステータスが半分になっていても、ここからなら全速を出せばそんなにかからず街に行けるはずだ。


『『それじゃあ頑張って!』』


 ポシルは2体に分かれ、触手で手を合わせ、挨拶を交わす。

 お前も頑張れよ。的なあれだろうか。


 互いにポシルで、違う自我ではないはずなのに、なんとも不思議な光景だ。


 分裂体が移動した事を確認し、再度岩山を観察する。

 時間は22鐘を過ぎたところだ。


 失ったMPを回復する為、《魔力還元》で周囲の魔力を吸収する。


 数分後

【MP】 1200/1820

 よし。とりあえず十分だろう。いくぞ。


 スズネの無事を祈り、気配を断つ。


「ポシル。入ったら右手の2人の首に一突きだ。声も出させず一瞬でお願い。僕は残りの2人だ。大丈夫?」


『うん。頑張る』


 触腕を柔らかくしたり、硬くしたりとポシルはやる気に満ち溢れている。


 気配遮断をかけながら、岩山の隙間を抜ける。


 思った通りその先は広くなっており、抜けたすぐの岩陰には左右2人ずつ見張りがいた。


 さすがに、僕が来る事を警戒しているのか、気が抜けている様子はない。やはり誘い出されたか?


 ナイフを取り出し、左手の2人の首を狙い素早く振り抜く。


 声もなく倒れたのを確認し、後ろを振り返ると、すでにポシルが2人を始末していた。


「お疲れさま。ポシルも立派なアサシンだね」


 そう言って頭を撫でると、嬉しそうに体をくねらす。

 もはやこの行動は、犬の尻尾的な条件反射のようなものではないだろうか。


 なんとも可愛い。


 音もなく静かに見張りを無効化し、再度広い範囲での気配を探る。


「途中2手に分かれてるね。右に進むと、すごい狭い空間に何人かいるからそこが牢屋かな」


 何故だかわからないけど、僕が本当にターゲットなら、恐らくスズネは牢屋じゃない方にいる気がする。


 【追跡眼】


 そう考え再度追跡眼を使うと、思った通りスズネの痕跡は左に進んでいる。ただ、漂う痕跡が担がれている位置から、歩きに変わっている。ここで目を覚まして、歩かされたか?


「いた」


 左に進み、しばらく進むとそこは大空洞となっていた。

 その大空洞の一番奥の篝火がたかれたスペースに、縄で縛られ猿轡をされた状態で、横に寝かされているスズネはいた。


「スズネ!」


 慌てて飛び出しそうになったタイミングで、ポシルが肩を軽く刺激する。


『マスター落ち着いて!』


 軽く刺激された事で、少し冷静になる。

 大きく深呼吸を一度し、ポシルを撫でた。


「ありがとう。落ち着いたよ」


 《気配察知》で大空洞を確認する。


 やはり待ち構えていたか。


 そこには20人の気配と、魔物10体の気配があり奥にスズネと主犯格であろう男の気配があった。


「たしかにまずは、スズネを解放する事だね。ポシルは念のため入り口を確保しておいてくれるかい?」


 ポシルから了承の意思を受け取り気配を断ち、スズネに向かって進む。ギランさん達が来る前に情報だけでも集めておきたい。


 そして大空洞に足を踏み入れた。


「来たな!隠れているのはわかってるんだ姿を現しやがれ!こいつがどうなってもいいのか!」


「っ何故?」


 何故バレた?《気配遮断》は確かに使っていた。


 それに空洞に入る際だって、物音一つ立ててない。


「早く出てこい!こいつの首がすっ飛ぶぞ!」


 奥にいる主犯格の男が、篝火で照らされた明かりの下に歩みを進め、斧をスズネの首に向け振り下ろす。解析をかけるにはまだ離れ過ぎている。


「やめろ!」


 スズネの首に斧が当たる瞬間、斧が止まる。


「やっと出やがったか。その感じじゃ見張りは殺りやがったな。おいっ!」


 合図とともに周囲の仲間が囲いを狭める。

 同時に仲間の一人が、魔法を使い大空洞を照らした事で、魔物の正体も分かった。


「テイムモンスターか」


 フォレストレッドベア

【Name】ベイア

【age】4

【Lv】 14

【HP】 200/200

【MP】 0/0

【力】 280

【体力】 290

【器用】 80

【知力】 20

【素早さ】100

【魔力】 10


 ♯テイムモンスター


【スキル】

 ノーマルスキル

 爪術<Lv2>

 咆哮<Lv1>

 豪腕<Lv1>


 

 フォレストウルフリーダー

【Name】ザックス

【age】6

【Lv】 19

【HP】 180/180

【MP】 20/20

【力】 180

【体力】 160

【器用】 120

【知力】 20

【素早さ】200

【魔力】 20


 ♯テイムモンスター


【スキル】

 ノーマルスキル

 牙爪術<Lv2>

 統率<Lv1>

 連携<Lv1>


 フォレストレッドベアが1体、フォレストウルフリーダーが1体。


 あとはリーダーに従う4体のフォレストウルフに4体のゴブリン。

 計10体の魔物は3人の男に従っている。


「ベアとウルフリーダーはネームドか。明らかに僕より強いな」


 念話でポシルをベアのマスターに向かわせる。


(合図ともにたのんだよ)


 了承の意思が伝わったところで、主犯格に視線を戻す。

「まさか一人で来るとは思わなかったぞ。一人で十分だと思ったか?相変わらずムカつく野郎だ」


 スズネを縛った縄を持ち、近寄る主犯格の男が、ばさりと被っていたフードを取り外し、顔を露わにした。


「あんたは……」

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