第19話 冷たい笑顔

「おっ!タカヤくん。やっと帰ったのかい。どうだ、依頼は達成できたか?」


 門に着くと、ミレークさんが出迎えてくれた。

 このミレークさんは、最初に街に来たときに解析した門兵さんで、あれからもギランさんと共に、よく声を掛けてくれる良きお兄さん的な感じの人だ。


「はいミレークさん。ウルフと猪ですが、しっかりノルマ分は狩れました。そうだ入街証。今でもギルドカードの確認、お願いできますか?」


「勿論だよ。じゃあ入街証と、ギルドカードを預けてもらえるかい」


 ミレークがそう言うと、すぐに入街証とギルドカードが確認される。


「ん。大丈夫だ。じゃあ銀貨5枚返却だね。それにしても今日1日の成果としては、かなりの量だね。あまり無理はしないようにな」


 にっこりと笑いかけながら、優しい言葉をかけてくれる。


 ミレークさんは、本当にいい人だ。

 今度ギランさんといるときに、コックスさん調理済みの絶品野うさぎ料理を持ってこよう。


「ありがとうございます。それじゃあギルドに報告してきます」


 ミレークさんに一礼し、スズネと共にギルドに向かう。時間はそろそろ18鐘になるタイミングで、ギルドの中は依頼達成の報告を待つ人で賑わっていた。


 この時間帯は流石に依頼を受ける人は極稀で、3つある受付も1つになり報告カウンターが、従来の2つから3つに、買取カウンターも1つから2つに増えている。

 時間帯によって、効率よく窓口の数を調整しているようだ。


 そんな事を考えていると思っているよりも早く、順番が回ってきた。


「お帰りなさいにゃ。死なずに何よりだにゃ!」


 元気一杯に対応してくる受付嬢。今回の担当はミーネのようだ。


「こんにちは。ミーネさん。依頼の達成確認をお願いします」


「OKにゃ。それじゃあ、ここに討伐証明部位と毒草を提出してにゃん。ふふん。ちゃんと狩れたかにゃ」


 ミーネは、クエストの失敗を匂わせながら不敵な笑みのを浮かべる。


 早速ファングウルフの牙と突撃猪の尻尾をミーネの前のトレーの上に置く。

 ファングウルフの牙が、5個を超えた辺りからミーネの表情がおかしくなったが、気にしない。


「えっこれは今日1日の成果ですか…にゃ?違う日のはだめにゃ。違反にゃ」


 なんか不正を疑われた。


「えっちょっと待って下さい。ちゃんと今日討伐依頼もらってから仕留めたやつですよ!ファングウルフ7匹と突撃猪5匹、毒草20束です」


 ギルドカードの討伐記録を見せながら、慌てて今日の成果を報告する。


 ミーネもギルドカードの討伐記録と、討伐証明を見比べ驚きの表情を浮かべる。


「新人と討伐失敗続きの冒険者が、1日でこれだけの討伐数は異常にゃ。でも事実だから認めるにゃ。これが今回の報酬にゃ。ファングウルフ銀貨10枚銅貨50枚 突撃猪銀貨6枚 毒草銀貨16枚 確認するにゃ。あと買取に関しては、買取受付で査定するにゃ。あっち持ってくにゃ 」


 今回の頭数は、新人の冒険者ではありえない量らしく。


 通常ファングウルフ5匹 突撃猪3匹で1日を費やし、毒草に至っては他の討伐依頼を受けていれば、1本見つかればラッキーくらいの感覚だとのことだった。


 ファングウルフに至っては5匹を超えた場合、統率者がいるケースが多い為、そんなグループを討伐したのかと驚かれた。


 勿論違うグループと弁解したが、通常そんなペースで小さなグループを発見するのが難しいと、さらにつっこまれた。


「よし合計32銀貨と50銅貨。あとは買取がどれくらいになるかだね」


「はい。楽しみです。やっと依頼が達成できて、しかもいつもより多く討伐できましたし」


 軽い足取りで2つ隣の買取受付に向かう。


 受付にいたのは、ドワーフのような低身長の樽型の体型のおっちゃんだった。


「おう。期待の新人君じゃねーか。討伐依頼受けたんか!素材だしな」


 なんか凄い勢いで迫られる。


「あっはい。いまだします……」


 ちょっとビビってしまった。


 鞄に手を入れ収納BOXから素材をとりだし、おっちゃんの前に積み重ねる。


「ほんと便利だよね。そのマジックバック。いいな〜。でもそんな容量のなんて買えないし、タカヤが持ってて、ラッキーだったよ」


 この世界では、職人の作るマジックバックと迷宮産のマジックバックが存在するが、どちらも非常に高額で、高ランクの冒険者や商人でも一部しか持っていない。そのため、アイテムBoxスキルやそれに類する魔法が使える人は、非常に重宝されている。


 まあ僕は神様の過保護のおかげで、両方とも上位互換で、持ってたりするからね。


 なので、スズネにはただの鞄に、収納Boxの入口をかぶせて、冒険者だった父親から貰ったマジックバックだと話している。


「ほー。流石期待の新人だ。ファングウルフ7に突撃猪5か。しかもどれも急所に一突きで解体も少し不慣れだが、何枚かは比較的上手く出来てる。まぁいいだろう。ファングウルフの毛皮と牙で、1体分あたりは1銀貨。突撃猪は、毛皮は40銅貨だが肉が食肉として買い取ってるからこの量なら、1銀貨20銅貨で、計1銀貨60銅貨だ。ほれ、15銀貨受け取りな。それと魔石分だな。ウルフと猪どちらもFランクで1つ銀貨1枚で12銀貨だな 」


 何故か満面の笑みを見せるおっちゃんは、硬貨の入った小袋を乱暴に置き、報酬を渡してきた。


「ありがとうございます。ではまたよろしくお願いします」


「おう!無理せず無理して、また持ってこい!俺はガンドン。魔物の解体の事が知りたきゃいつでも尋ねな!」


「有難うございます!解体は手探り自己流なので是非教えて下さい!」


「おうよっ!」


 2人して満面の笑みでやりとりし、握手をかわしていると、後ろの方から冷んやりとした気配が突き刺さる。


「あー。スズネさん?お待たせしました……?」

「はい。とっても待ちました」


 はい。

 とっても冷たい笑顔でした。

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