一話続き
壁にたくさんの時計が配置されている反対に、机の上や棚の上にはいたるところにカメラが置いてあった。これはおれのカメラだ。一眼レフ二眼レフコンパクトカメラからデジタルカメラまでありとあらゆるカメラが無分別に散らかっていた。彼女もカメラには多少の知識があったが、取った経験は少なくむしろカメラのデザインに惹かれるところがあるようだ。もちろんおれはデザインも好きだ。おれは大学で主にデザインをやっていた。その成り行きでカメラの機械としての機能美に触発されカメラとの縁が生じたといってもいい。
とにもかくにもだ。行かないと決めたからにはK村の観光課に連絡しなくてはならない。おれは手のひら大の折り畳み式スマホを取り出し電話番号を調べた。K村の主な産業は漁業であるらしいが、ホームページにはでかでかと古い木造建築が貼られていた。なるほどあいつが海の写真を撮りたがった訳だ。するとやつにも多少の考えがあったのかもしれない。そこで少し電話をかけるのにためらいが生まれたが意を決して番号を叩いた。
「もしもし、山田か。悪いが今日そちらには行けなくなってしまたんだ。ほんとに済まない。」おれは声色を変えてそう言った。
「おい本当か。まずいまずいぞ。お前せっかくの機会を。まあとにかく分かった。理由は聞かないでおいてやる。だがこいつは貸しだからな。覚えてろよ。じゃあな」山田は返事の内容とは裏腹に、すでに知っていたかのような口調でそう言い電話を切った。もしかしたらあいつはおれに会いたかっただけなのかもしれないな。話してみて直感的にそう感じた。おれは友人達との間に心からの友愛を感じているのだが、昔から勘違いされやすい質だった。この間別の友人とたまたま会ったときには「おまえ以外とは定期的に顔を合わせているんだぞ」と言われ少なからずショックを受けたこともあった。来週あたりにK村に顔を出してやろう。そう思った。思えば自ら友に会いに行こうと考えたのはこれで初めてだった。なるほど誤解されて当然かもしれない。今度こそはジージャンとジーパンをそろえてやる。ふああ、もう一度布団に入ってひと眠りつくか。心穏やかにそう思った。
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