最終章 誕生 第5話

 一気に、感想まで話したことで、瀬名の興奮が周囲にもわかった。いつもならもっと冷静な瀬名が興奮していたのは、連射で初の二頭の捕獲だったからだ。


 男子三名はすでに経験していた神業だったが、ようやく瀬名にもその機会が巡ってきて、達成することができたのだ。そのことを知らないのは記者だけであったが、周囲のスタッフには十分にその達成感が伝わってくるコメントだった。


「え~、次は」


「僕です」

と後田が答えた。


「僕のところでシカが見えたのは、松山君の発砲の後でした。二頭が、沢のなかに飛び込むように入ってきて、ちょっと慌ててしまい一頭目は、お腹近くを撃っています。二頭目で落ちついて頭を狙って撃ちました」


「なるほど、背中から滑り落ちて行ったのが最初で、その場でしゃがみこんだのが二頭目だったね」


「そうです。僕の撃った個体は、松山君の向こうに置いてあります」


 確かに後田が言うように、一頭目は体のほぼ中央で背骨よりのところに弾痕がある。ここに命中したら、脊椎にダメージが伝わって動けなくなってしまうが、食肉用として考えれば一番美味しい背ロースをダメにしていて、狩猟現場では下手くそと怒られても仕方のない場所に命中していた。


 そのとなりは、頭を撃ち抜いている。これならば、食肉用には最高の命中場所だろう。


「最後に撃ったのが僕で、おそらく後田君が撃った二頭と一緒に行動していた三頭の内の一頭だと思います。


 僕がいた場所よりも一段高い砂防ダムを渡るところが見えたので、わずかですが上流へ位置を動いてから撃ちました。


 そのため、沢を渡り切る直前まで撃てませんでしたが、最後の段差を登るところでスピードが落ちたので当てることができました」


「なるほど、そういうことだったのか。僕のところからは、沢を渡り切って逃げてしまうように見えていたけれど、君が追いかけて撃ったということだね」


「はい。そうです」


「七頭出て、七発撃って、七頭の捕獲かぁ・・・。百発百中だね。凄いねぇ・・・」


 しばらく、記者は先ほど目の前で行われた一連の捕獲場面を思い出しながら記事にする言葉を考えている様子だった。


「君たちの成長具合を取材させてもらうためにお邪魔しましたが、正直なところここまでできるとは思ってもいませんでした。


 これまで、他の捕獲現場でも取材させてもらった経験がありますが、実際に捕獲シーンを見たのは今回がはじめてでした。しかも、解説付きで、正面の大型スクリーン上で一連の流れを拝見することができて、正直興奮しています。


 君たちの成長具合を見させてもらうなんていうのが失礼だったね。もう立派なハンターだね」


 という記者の感想を聞いて四人は顔を合わせた。


 そして、四人が揃って、記者に向かって言った。


「いえ、僕たちはサーパスハンターです」

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