あとがき

 昔、少年ジャンプに掲載された漫画「流れ星銀」に出てくる「赤カブト」のような、鉄砲も通用しないような化け物がでてくる物語ではないが、この本は、現実に山の中で起こっている事実に基づいて創作した物語である。


 暇つぶしの読み物として、狩猟や射撃を身近に感じてもらえたのであれば幸いであるとともに、野生鳥獣による被害は、決して遠い山奥で起きているわけではなく、都市でのカラス問題のように身近な問題であることを知ってもらえればと思う。


 腕自慢の狩猟者が集まって自分たちの技量を誇っているだけだと思われた方もいるかもしれない。真に必要なのは、科学的な捕獲ができる専門的捕獲技術者で、地元に根差して被害防除、生息地管理も含めた総合的な対策を担うことのできる人材だという意見も多い。


 言われるような人材は、これまでにも各大学で育成され、現場で活躍している事例がある。しかしながら、今現在も「個体数を減らす担い手不足」という問題に直面している。


 野生鳥獣による農業被害総額は、全国で毎年二百億円にもなる。


 明治以降の百年間が野生鳥獣による農作物への被害がない奇跡的な期間であったことは明らかであり、その間に野生鳥獣との戦い方を忘れてしまった感がある。


 被害対策の主役は、あくまで被害農家自身であるべきだと思うが、シカの個体数の増加と生息域の拡大による森林被害に対する主役はこれからも狩猟者であろう。しかし、狩猟者の高齢化と減少は著しく、その役割が十分に担えなくなることも明らかである。


 このような背景の中で、地域リーダーを養成する講座や取り組みは、国、地方自治体、市町村に限らず、民間においても始まっている。


 捕獲の担い手の育成はまさに焦眉の急であるが、狩猟者による狩猟者の育成では、すでに間に合いそうもないからだ。


 地域リーダーの養成が上手く行えている現場は少なく、その方向性も捕獲の担い手というよりは、行政に代わって地域ので調整役としての役割を期待しているように思われる。

 

 本文に書いたように、船頭役ばかりに育成の目が向いており、本当に必要な科学的な捕獲を担える人材育成に目を向けている取り組みが少ないのだ。


 国も農水省が大きな予算を確保して農業被害対策事業を推進しているが、その対策には長期的な視点での対策を加える必要があるように感じている。


 狩猟者を捕獲実施隊として捕獲強化を狙っているが、担い手不足を考慮すると数年で機能しなくなる可能性が高い。


 短期的には、やむを得ない対策だろうが、長期的には後継者の育成になるべく予算を使うべきではないだろうか。数年で効果が失われる対策につぎ込むよりは、今後二十年、三十年とその効果が継続する世代へと投資する方が活きたお金の使い方だろう。


 環境省も鳥獣保護法を改正して、シカとイノシシの対策に本腰を入れようとしている。事業者認定制度などは、新たな捕獲集団を確保・育成するという視点から考えれば反対する理由などありはしない。


それでも法改正に寄せられるパブリックコメントでは、狩猟者からの反対意見が多い。 狩猟者が捕獲の担い手として今後もその役割を果たすことは間違いないが、それだけでは足りないのだ。もし反対するのであれば、一にも二にも、自らの後継者育成が必要であろう。


 環境省の法改正の意図も、狩猟者を排除しようというものではなく、補完的な組織として事業者をとらえている。


 シカ問題については、現場での人材は不足するというか、すでに不足している。そうした背景の中で、捕獲を体系的に教えるという取り組みは、いくつかの狩猟グループで取り組むようになっており、喜ばしい限りである。


 ただ、方法がひとつである必要はない。


 この物語は、フィクションであるが、今回モデルとなった学校は実在する。大学でも『狩猟学』などの講座を開設しているところも増えている。


 しかしながら、一般の人が狩猟をはじめようと思ってもどこに聞いたら良いのかわからない。射撃をはじめようと思っても誰に聞いたら良いのかわからないのが現実だろう。


 書店に行っても、その参考書となるような書籍は、現状ではほぼ皆無である。「狩猟読本」や「初心者講習用教材」などのテキスト本は存在するが、それを書店で入手することはまずできない。このような情報不足は、後継者の育成の動機付けにおいては。致命的である。


 捕獲という特殊な作業には、正直なところ向き不向きもある。やる気だけでは、乗り超えることのできないことも多々ある。それでも、まずは知らなければ判断することもできはしない。


 ベンチャービジネスでもあり、それこそ安定性などあろうはずもない。危険とも紙一重の仕事である。生活に安定を求めるような性格ならば、決してお勧めはしない。面白いと思えるような性格でなければ、現場には向かない。読後、面白いと感じたならば、一度関連する情報を検索してみることからはじめたらいかがだろう。


(おまけ)

 株式会社WSaTでは、今後一般の方向けの講習会を開催したいと考えております。

 詳細が決まり次第、HPやTwitter等でお知らせしますので、今しばらくお待ちください。

 この度は、最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

 明日からは、「新たな狩猟伝承」をスタートします。

 どうぞ引き続きよろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新たな狩猟者像 ~サーパスハンターを目指して~ wsat @wsat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ