第7章 インターンシップ 第22話
教習射撃の会場で出会い、この学校のことに興味をもったのも事実だったろうが、その背中を押したのは、母親のお見合いの勧めだったとは、三人ともまったく聞かされていなかった情報である。
「それで、今度こそ戻ってくるだろうからって、またまたお見合い写真なんか送ってきて。『いつ帰省するんだ』なんてしょっちゅう電話してくる。『こっちで就職する』なんて言えば、その十倍くらい言葉が返ってくるから頭来ちゃう」
「瀬名さんの実家って、和菓子屋さんだよね」
「そう。明治時代から続く老舗ってやつ」
「でも、本当に戻らないの」
「えぇ、せっかく大学やこの学校で学んだ野生鳥獣のことを活かせる仕事は、ぜひやってみたい。みんなのように即戦力と評価されないのは仕方ないけれど、女性でもきちんとしたプログラムで育成すれば、三十年のベテランハンターにも負けない活躍ができるって証明してみせたい」
瀬名のやる気スイッチは完全に押されている状態なのだろう。
その思いは、男子三名よりも強いのかも知れない。女の子なんだからと母親に言われるのが一番嫌らしい。
お見合いしてお婿さんを貰って、実家を継ぐというのは、両親、特に母親にしてみれば、一番無難で問題のない将来のように思えるのだろう。こんなことになるなら、大学に行かせなければよかったと愚痴られたことも瀬名は話してくれた。
「確かに、お母さんのいうこともわかるんだけれど、それは今じゃなくてもって思えるし、この分野って先人がいないだけに、やり甲斐があるっていうか。スタートラインに立っているのに、レースに参加しないで、家に帰るっていうのはあり得ない」
もう気持ちは、ゴールラインに向けて真っ直ぐなのだろう。スタートラインにいるというより、もうスタートしてしまっているのだ。後戻りなどできるはずもない。
いつかは実家に戻るにせよ、今はその時ではないと瀬名は思っているのだ。
結局、最終面接まで残っていたコンサル系の会社では捕獲事業はないということで、瀬名の気持ちはその会社から離れて行った。捕獲事業の有無にこだわる彼女は、すべての会社を辞退すると、今度は真剣に起業することを考えはじめたようであった。
彼女の行動力を知っている三人にしてみれば、小柄な体格のどこからそのエネルギーがわき出てくるのだろうと不思議でならなかった。
そして、最終的には、彼女のそのバイタリティを学校が評価してくれて、従前からの課題となっていた短期講座や聴講希望への対応をするスタッフとして学校に残ることになった。
もちろん、ワイルドライフマネージメント社の捕獲事業に継続的に参加しつつ、後輩達の面倒もみることになるわけだ。
大学の研究室でいう助手といった立場だろか。肩書きは講師となったが、結果としては彼女にとって最高の進路先となった。
これまでも男子三人にはない緻密さもあって、兵站にあたる部分では彼女に何度助けられたかわからない。
女性ならではの視点であったり、アルバイトで経験している段取りであったり、子供の頃から実家で培われた経験が活きているのだろう。そのキャラクターから考えれば、誰もが適任だと思える活躍の場所だ。
ワイルドライフマネージメント社のスタッフは講師ではあるが、学校に常駐しているわけではなく、講義の時間帯しか学校にいることはない。そのような状況下で、学校にこのコースの一期生が常駐することになる意味は大きい。彼女にサポートされる後輩は恵まれていることになる。
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