第7章 インターンシップ 第19話

 朝の社長からの電話でも、それなりに高揚感はあったのだが、ひと通りのあいさつが終わってホッとしたことから感じる実感だったのかも知れない。


 内定辞退した時には、もうこの会社の敷居を跨ぐことはできないだろうと思っていたが、先方から声が掛り、またしても内定をもらえるとは思えなかったのも事実である。


 黒澤から声を掛けられなければ、願書を送ることすらしなかったと思うのである。


 後田からの電話を切ると、黒澤は丸山調査の丸山社長の携帯へと電話をしていた。


「丸山、おはよう。今、後田から報告があった」


「黒澤か。だいぶしっかりと仕込んでくれたみたいだな」


「あぁ、彼なら現場でも十分やっていけるだろう。持ち前の明るさが、現場では生きるだろうな」


「ありがとうよ。これで、我が社も捕獲事業への足がかりを作れそうだ」


「そうだな。これからも、よろしく頼むよ」


「じゃ」


 そんな会話だったが、同級生の二人には十分だった。


 二年前、後田の内定辞退の時から、この日は約束されていたのかも知れないが、後田の実力が伴わなければ流れていた話でもあったろう。



 柴山と瀬名の進路が決まれば、サーパスハンターコースの一期生の就職率は百パーセントとなる。この数字は、対外的にも重要であるとともに、今後の学生募集にも大きく影響する。


 この学校で学べば、このような就職先があると具体的に示せることが即戦力を養成する専門学校においては学生募集における特効薬となるのだ。


 柴山にもそれなりの焦りはあったが、最終的には実家へもどって爺ちゃんの畑を継いでもいいと思っていた。実家周辺の農業被害は、このところ顕著であり、その担い手を地元が欲しているのも分かっていた。


 おそらく今柴山が実家へ戻れば、地元は歓迎してくれるだろう。


 大学に進学する際に、思った獣害対策の担い手として、十分に現場で役に立てるだけのスキルは身につけることができたと自負していた。そんなこともあって、帰省した際には、両親、爺ちゃんと進路についていろいろと話し合う時間を作っていた。


 六十歳代後半の祖父は、一度は諦めかけた農業だったが、まだまだ畑は頑張ると言っている。


 もう農業などやめればと言っていた父親も、老後の楽しみとなっている農業を取り上げるつもりはない。


 また昔のように野生鳥獣にやられっぱなしという状況も、様々な対策でだいぶ防げるようになっていることから、爺ちゃんのやる気があるうちは放っておこうという考えのようであった。


 母親は、できればきちんとした会社に勤めて、安定した収入を得られるようになって欲しいと願っているようだった。


 柴山と言えば、戻ることに抵抗はなかったが、まだ産声を上げたばかりのこの業界で最先端とも思える現場を数多く経験しただけに、その延長線上で仕事をすることにも未練がないといえば嘘になるという状況だった。


 結局のところ、就職活動で思うような企業があれば就職すれば良いし、なければ戻ってくれば良いというのが、実家での進路に関する結論だった。

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