第7章 インターンシップ 第9話

 こういった捕獲現場での経験の他に、講習会や講座の助手として、普及啓発の現場にも同行することがある。


 講習会は、被害農家を対象とした捕獲技術講習やその地域のリーダーとなる人材の育成を目的とした技術研修まで、一日単位のものから数日間の本格的なものまで、それこそ毎月どこかで開催されているような状況だった。


 講習会の講師は、ワイルドライフマネージメント社のスタッフが交代で対応していたが、数日間の本格的な研修会では、複数のスタッフが講師となって座学から実習までを担当していた。


 講座は、山里が帝山大学で行った一般開放講座のようなものから行政職員を対象としたものや狩猟者を対象としたものまで、一年間で二十回以上実施している。


 そのような講座は、黒澤と山里が担当することが多かったが、対象に配慮した話題提供や最先端の情報などを織り交ぜた話は、何度聞いても面白く、参考になるものだった。


 柴山と後田が、講座の受付を手伝っていると、大学の先輩や後輩に声を掛けられることも多かった。


 松山にとっては、二人を通じて知り合った同年代の他の学校の学生との交流は、新鮮であった。


 講座後に、急遽設定された飲み会などでは、彼らが講師役となって話すことが多く、現場を知っているというアドバンテージは彼ら自身の予想以上に大きなものだった。


 四年生になってからの講座では、自分たちの取り組みが話題にされることも多く、狩猟者とサーパスハンターの違いやその役割について整理されたスライドを見るたびに、気の引き締まる思いに駆られる。


 そのスライドでは、太平洋戦争後の狩猟者をその動機から分類し、特徴を説明したもので、第一世代の狩猟者は「食糧自給のため・高齢で数は少ない」とされ、八十歳くらいの年齢層を表している。


 第二世代の狩猟者は「レジャーのため・技術力は高い」とされ、現在の狩猟者の多くがこの世代に含まれている。現在は、この世代の狩猟者の数が相対的に多いが、その中心は六十歳代となっていて、五十代、四十代、三十代と人口は減少していく。


 第三世代の狩猟者は「獣害対策のため・知識は豊富だが、技術力は低い」とされ、大学等で獣害対策を学び狩猟免許を取得した世代としている。二十代から三十代前半くらいの世代であるが、数は第二世代に比べればかなり少ない。


 第四世代の狩猟者は「ファッションのため・知識、技術力ともに低い」とされ、狩りガールのようなイメージとされていた。人口にいたっては、ほんのわずかでしかない。狩りガールが聞いたら怒るだろうが、現場での状況を見る限りでは、このスライドの内容に軍配は上がりそうだ。


 また柴山と後田は、二年前の自分自身を思い起こせば、まさに第三世代の狩猟者であったことが実感できる。


 スライドでは、この第二世代から派生した第一世代職能的捕獲技術者というグループが描かれている。「サーパスハンター・知識、技術力がともに高い」と表現されている。このグループに当てはまるのが、ワイルドライフマネージメント社のような全国で専門的に捕獲事業を実施しようとしている事業者だろう。まだまだ数は圧倒的に少数だが、確かにこれまでの狩猟者とは異なる集団としてとらえる必要があるだろう。


 講座での質疑応答で、

「このグループには、従来からの有害鳥獣捕獲隊や鳥獣対策特措法に基づく捕獲実施隊も含まれるのか」

という質問があったが、


「それは第二世代の狩猟者の範疇にある」

との答えに、質問者も柴山たちも納得していた。

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