第7章 インターンシップ 第8話

 現場でのワナの設置場所選びも完全に任されたが、これまでのマニュアルから、ここが良いだろうという候補地を四人がお互いに意見を出し合う形で決めて設置した。


 その結果について、武井は何も言わなかったが、一週間後にその結果は明らかとなった。


 一週間後、餌の交換に行くと、箱ワナの周辺にはイノシシの足跡がたくさん残っていたが、箱ワナの中の餌には手を付けていなかった。


「惜しい。もうちょっとなのに・・・」

というと、武井が声を掛けた。


「確かに、惜しい。けれど、獲れていなければどうにもならない。なぜ、イノシシは入らないかを見極めないと」


「そうだ。どうして、イノシシはここへ入りたがらなかったんだろう」

と松山が応じる。


「イノシシの気持ちになってみないとな」

と柴山が引き継ぐと


「イノシシの気持ち、イノシシの気持ち・・・」

と瀬名と後田が、イノシシになりきろうとしている。


 周辺の様子を確認していると後田が気づいた。


「なぁ、入り口の向きが悪いのかも」


「なんで」


「いや、なんとなくなんだけれど、こっちから入ると奥が道路の方でなんか明るくて見られている感じがする」


「なるほど。山側から出てくるだろうからこの向きにしたけれど、イノシシにはお気に召さないということか」


「百八十度向きを変えてみない」


「あぁ、これだけ周囲に足跡が残っているから、他の場所に移すよりはその方が良いだろうな」


 ということになり、扉の向きを逆にして、山側からは回り込まないと餌にたどり着けないようにして、餌の交換を行った。


 その晩、松山の携帯に自動通報システムからワナが作動したというメッセージが届いた。


「やった!」


 すぐさま、瀬名、柴山、後田に連絡をいれて、翌日の回収の打ち合わせをした。

 翌日、現場には坂爪が同行してくれた。


「おぉ、掛かってるよ」


 箱ワナの中には、親と思われる大きめの個体の他に、子供が三頭入っていた。


「この蹴り糸の位置はどうやって決めたの」と坂爪からの質問があった。


 これには、自信をもって松山が答えた。


「周辺の足跡から、この成獣くらいの大きさのイノシシがいるって想像して、その体高から少し高めに設定しました」


「なるほど、よく考えたね。低く張ったら、子供は獲れたろうけれど、親は獲れなかったろうね」


 この捕獲で、この現場は終了となり、資材を回収して戻ることになったが、三人とも収納の前のメンテナンスの重要性は十分認識していたので、ワナの清掃には念には念を入れた。


 戻ってから、箱ワナの前に設置していた自動撮影カメラを確認すると、ワナの周辺にきていたイノシシの群れは、あの四頭ですべてだったことが確認できた。


 わなの設置時点で、入り口の向きを変更していたら、一週間もかからなかったかも知れないという思いは三人に共通した思いだった。

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