第7章 インターンシップ 第7話

その晩、松山はリーダーの責任だからということで、一人でワナに装着する標識を完成させた。


 くくりワナのように大量に作る必要がないのが幸いだったが、記載事項に間違いがないか何度も何度も確認していた。


 翌日、出発時間の一時間前に資材倉庫に行くと、他の三人が先着していた。


「おはよう。ワナに装着する標識は完成した?」


「あぁ、すまなかったな」


「あのさ、チェックリストを後田と作ってきたんだ。もう一回、荷物を積み直しながら、確認してみないか」


「そうだな。まだ時間もあるし、やってみるか」


 四人は、昨日に積み込んだ機材を車から一旦降ろして、確認を再開した。


 瀬名が、チェックリストを読み上げて行く。


「箱ワナ」


「OK!」


「なぁ、この箱ワナを一度組み立てておかなくても大丈夫かなぁ」

と言ったのは、後田だった。


「何かパーツが不足していたら、アウトだぜ」


「そうだな。毎回スタッフの人たちが丁寧に片付けているから大丈夫だと思うけれど、念のためにやってみようか」


「じゃ、時間がないから急がないと」


 三人は、箱ワナを組み立てはじめた。通常二人で十分もあれば組み立てられるが、片付けて元に戻すとなれば、急がないとならない。


 組み立てはじめて直ぐに松山が気づいた。


「なぁ、金具をとめるボルトとナットってどこだ」


「あっ、入ってない」


「やっべぇ~。探せ!」


 倉庫内を四人で探し始めると、箱ワナの設置場所の横に、

『箱ワナ用ボルト類』と書かれた箱が置いてあって、その中に入っていた。


「やばかったな~。これじゃ、ワナの設置ができなかったよ。武井さんが来る前に気づいて良かった~」


 こうなると、まだ忘れているものがあるように思えてきて、チェックリスト以外に忘れ物はないかと不安になってしまう。


 ギリギリまで確認をして、荷物を積み終わったところに武井がやってきたが、正直なところ不安でいっぱいな状況だった。


「おはよう。確認はできたかな」


「はい。たぶん・・・」


「なんだ自信なさそうだな」


「実は、さっき再確認していて、箱ワナのボルトとナットを忘れていることに気づいて積み込んだのですが、まだ何か忘れているような気がして・・・」


「なるほどな。なんか忘れているという不安があるっていうことだ」


「はい・・・」


「まぁ、今回の狙いは失敗してもらうというところにあったけれど、そこまで確認できたのなら、こう考えたらどうだろう。まずは、致命的な忘れ物がないかだけ再確認するんだ。致命的でなければ、現地で対応することもできるだろうし、後からスタッフが合流するときに持ってきてもらっても間に合うと考えたらどうかな」


「はい、それならばもう大丈夫です」


「了解、じゃ、出発しよう」


 致命的でなければ良いという割り切り方を教えられたことで、楽にはなれたが、昨日と今朝の時間的な余裕がなければ致命的な忘れ物をしていたことには違いない。


 武井のアドバイスがなければ、大きな失敗をしでかしていたのは間違いない。


 あえて今回は、失敗してもらうことが狙いだったとは言われたが、そのようなことになっていたとすれば、事業自体への影響は避けられなかったわけで、これまで積み重ねてきた学習からしても、自分自身が許せない気持ちになった。


 今回の現場では、ワナの設置までを一日で終了して、あとは自動通報システム任せとすることで、週に一度餌の交換にいくという計画で行われた。

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