第6章 実践 第18話
「ふ~う」
「やったね」
と記者が声をかけると、
「はい。初めての捕獲で、足がガクガクしています」
「はじめてだったんだ」
「はい。前回、ここで逃がしていて、その後も何度か発砲する機会はあったのですが、捕獲は初めてです。ほら、見てください、まだ手が震えてる」
そう言うと、手袋を外して震える手を見せた。
「興奮したもんね」
「はい。もう失敗できないってプレッシャーもあって・・・」
そう言いながら、銃を銃袋にしまい、逆に計測道具を取り出すと、倒れているシカの傍へと移動していった。
弾は、ほぼ身体の中心付近に命中していた。
「狙ったところより、後に当たってる」
「どこを狙ったの」
「前脚の付け根に当たるように、シカの顎の下あたりを狙いました。でも、引き止まっていたみたいです。まだまだですね」
「そうなんだ。でもはじめての捕獲でしょう。そこまでできるって凄いことでしょう」
「ありがとうございます。でも、これで満足していたら上手くなれないですか」
瀬名が、当然のことと本気で言っていることが記者にも良く分かる。
震えるほどの興奮と緊張と達成感の中で、黙々と計測とサンプリングを行っている瀬名の姿を、カメラにしっかりと納めきれるほどの撮影技術が自分にあるかどうか記者は感じていた。
一方で、記事にはこの高揚感を必ず書きたいと感じていた。
直ぐ、下から坂爪が合流するタイミングで、上流から勢子の松山も合流した。
三人が作業を分担して、短時間で計測は終了した。
引き出すために、スリングを結びつけていると、後田と柴山が合流して引き出しを手伝った。その他のスタッフは車を移動させて引き出しやすい場所へと移動させているとのことだ。
この段階で、午前中の作業が終了し、宿へ戻って昼食をとることになった。
昼食を食べながら、瀬名の周辺では瀬名の初捕獲についての話題で盛り上がった。
「初捕獲、おめでとう」
という周囲からの声に、瀬名は満面の笑顔である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます