第6章 実践 第19話

 記者が撮影したデジタルカメラの画像も、その場を盛り上げた。


 連写で撮影した捕獲シーンには、銃を構える後ろ姿越しにシカが写っている。ピントはシカに合っていて、背景の樹木が若干ぶれているように見えるのは、シカが走っているからだろう。


 瀬名の姿がフレームの中央から右へ移動するとともに、瀬名の身体の向きは左へと回っていく。最初は背中越しに写っていたシカが、フレームの中央へ移動してくる。右には銃を構えた瀬名が入っている。


 発砲の瞬間、銃口から煙り状のものが見えるとともに、銃身が若干跳ね上がったのか、画像がぶれている。次の一枚には、前脚を折りながら、地面に崩れ落ちていくシカの姿が写っている。


「スゲェー。動画じゃないのが残念だけれど、完璧ですね」


「よく撮れていたね。我ながら最高の画像だね」

 他のスタッフらも、その写真のアングルに感心しきりだった。


「なかなかこのアングルで、この瞬間を撮影した画像はないですね。ぜひ我が社のPR用にいただきたいくらいです」


「PR用にとはいきませんが、瀬名さんの最初の一頭ということなので、印刷して彼女には進呈しますよ」


「ありがとうございます」

 思いがけない提案に瀬名は心から喜んだ。


「いいなぁ」

 他の学生達は瀬名よりも初捕獲は早かったが、瀬名の幸運を心から羨ましがった。


 午後は、降雪が激しくなり、十分な視界が得られなくなったために、作業は中止されることになった。終日の取材を予定してわけだが、午前中にその目的は十分達成された。

 


 後日、瀬名のもとに初捕獲のシーンが納められた画像が郵送されてきた。サービス判サイズとA4判まで引き延ばした二枚だった。A4判は額に入れて自分の部屋に飾り、サービス判はクリアケースに入れて鞄の中に入れて持ち歩いている。


 一緒に、記事が掲載された新聞も送られてきたが、そこに掲載された写真は、捕獲シーンではなく、学生を中心にミーティングをおこなっている画像であった。


「捕獲シーンは掲載されなかったんだ」


「ミーティングシーンより、ずっと凄いのにね」


「やっぱり、捕獲シーンは新聞には無理じゃねぇ」


「うん、そうだろうね。まだまだ、世間には刺激的過ぎるだろうね」

 彼らにも、新聞社側の配慮は十分にわかる。


 捕獲シーンに対する反応は、必ずしも肯定的なものだけではないことは、これまでの経験からも理解できることだ。


 一方で、記事には彼ら学生の活動に期待するコメントが書かれていた。決して過激な表現があるわけではないが、あの日に記者が感じた臨場感や高揚感が十分に伝わってくる。


「脱包してください」という台詞が書かれている。


 安全に配慮しながら、初心者でも成果をあげられるように工夫された方法。合理的な作業、チームワーク。


 そんなキーワードがちりばめられ、学生達が何を目指しているのかが書かれていて、そのゴールに向かって頑張れと学生達への励ましの言葉で締められていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る