第6章 実践 第17話

 ここは、勢子と射手との間が、ワイルドライフマネージメント社では一番離れるとのことで、約一キロメートルの距離を勢子が早足で降りてくるコースらしい。


 開始から五分後、瀬名がシカの接近に気づいた。


 瀬名の後方でカメラを構えて待機していた記者にも、瀬名の様子からシカの接近がわかった。


 カメラを構えた次の瞬間、右手の尾根から三頭のシカが駆け下りてくる姿がファインダーの右端に見えた。先頭のシカにピントを合わせつつ、カメラを右から左に振っていくと、「ダーン!」という発砲音が、シカと間で響いた。


 ファインダー越しにシカが、前のめりに倒れるシーンを連写で納めることができたと思ったが、まだシカが後に続いている。そちらにカメラを向けたが、先頭の誘導役を失ったためか、急に進行方向を変化させて、左の県道方向へと逃げ始めている。


 瀬名は、その方向に銃を向けようとしたがすぐさま銃をおろして、薬室を開放した。


 改めて、新しい装弾を装填すると、再び尾根の方向に向きを代えて、次の個体の出現を待ち始めた。


 その間の時間は、極めて短い。また、撃ったことで興奮する様子も見えないばかりか、無線での報告もせず、ジッと上流を警戒しているのだ。


 十分後、ホーンが近づいてきたところで、後田からの無線が入った。


「予定ラインまで到着しましたので、終了します。脱包して、上流の射手から結果を知らせてください」


「瀬名です。脱包しました。三頭来て、一頭捕獲しました。二頭は県道方向へ逃げました」


「坂爪。脱包。こちらには来てまいせん」


「武井です。脱包しました。こちらも来ていません」


「坂爪。脱包。捕獲なし」


「柴山です。脱包しました。捕獲はありません」


「山里。脱包。こちらにも来ていません」


「松山です。脱包しました。瀬名さんの手伝いに移動します」


「了解しました。瀬名さんの近くの射手はお手伝いをお願いします。その他の方は、車にお戻りください」


 簡潔な報告が終わると、瀬名は大きく息をはいた。

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