第6章 実践 第16話

 このエアホーンの導入についての経緯を学生から教えられていて、「あぁ、なるほど」と納得もできた。


 ホーンには、第一にシカを追い立てる役割があるが、本当は勢子の位置を射手に伝える役割の方が重要だと言うのだ。


 はじまりは、狩猟グループとの協猟がきっかけだったとのことで、誤射を防ぐことが狙いだというのである。


 シカは、人の足音で十分に追い立てることができるが、そこへホーンを取り入れることで安全確保しているというのは、ユニークな方法だと思っていたが、実際に現場でそれを聞くことで、より納得できたのである。


 さらに、鳴らす回数を二回と三回と分けることで、勢子を区別することもできるのだ。


 そんなことを思いながら、ホーンの方向を見ていたら、突然「ダーン!」という銃声が左方向で聞こえた。


 武井達のいる方向だ。わずかな時間差をおいて、二発目の銃声が聞こえた。


 その後は、ホーンの音は近づいてくるが、銃声はなかった。開始から約十分後には、松山から、「予定の位置まできましたので、以上で終了します。各員脱包して、左から報告ください」との無線が入った。


「坂爪、脱包。捕獲なし」


「柴山、脱包。捕獲なし」


「瀬名、脱包しました。捕獲はありません」


「山里、脱包。二頭来て一頭捕獲」


「武井、脱包。山里さんの脇を抜けた一頭捕獲です」


「了解しました。処理に向かいます」


無線が重なることもなく順調に連絡が終了し、各人が捕獲個体の処理に移動していった。


 二頭は、どうやら親子のようであった。最初に撃たれたのが親で、計測したところ七十キログラムであった。


 二頭目が子供で角のまだないオスだった。どちらも前脚の付け根に命中していた。


 先に山里らが計測を開始していて、すでに親の方は粗方終了しているような状況だった。


 終了の無線からまだそんなに時間は経過していない。人手もあるので、子供の計測も平行して行えば終了しているところだが、学生の到着を待って、彼らに計測を行わせようとしている意図が読みとれた。


 学生四名が集合すると、各人がサンプリングをやろうと気負っている様子が見られたが、坂爪から「分担して、手際よくやって」と指示がでた。


 柴山がナイフを取り出すのが一番早かったので、サンプリング、瀬名が計測、松山が記録と役割分担をしての作業となったが、手の空いた後田にすかさず、坂爪から「後田君、搬出の準備」と指示がでる。


 まだまだ、手際はよろしくない。手元の作業は見えるが、先読みができないのは、経験値から考えれば当たり前だろう。それでも、数分の間には作業が終了し、スリングを首に結び、車まで引き出して終了となった。


 一息入れるのかと思っていたら、車に各人が分散して乗り込み始める。荷台に積んだ捕獲個体の撮影をしていたら、瀬名が「記者さん、次行きますよ。こちらに乗ってください」と声を掛けてきた。


 第一ラウンドは、出発から、ここまでちょうど一時間。


 間髪入れずに第二ラウンドに移行する流れは、油断していると乗り遅れることになる。


 乗車して、「捕獲の瞬間を見られなかったことが残念だったなぁ」とつぶやいたところ、「次は、きっと見られますよ」と瀬名が言ってくれた。


 第二ラウンドは、坂爪と瀬名について配置に入ることになった。


 ここは、前回学生達が失敗した場所とのことで、瀬名が前回と同じ沢の合流部。


 その下流に坂爪。砂防ダム下に武井、坂爪。尾根の裏側に山里と柴山が入る展開で、勢子は第一ラウンドと同じ、松山と後田で、後田がリーダーということであった。


 一番遠い射手となる山里から、「配置完了」と無線が入る。


 すかさず、「それでは、開始します。東側の尾根を後田、西側の尾根を松山で、ホーンの回数はさっきと同じです」とリーダー役の後田からの無線が続く。


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