第6章 実践 第6話
その後、無線機の充電、翌日に使う計測用具などの準備を終えると、ようやく自分の体のメンテナンスとなり、順番で入浴を済ませると一気に今日の疲れが襲ってくる。
しかし、不思議と体は疲れているのに、頭は冴えていて、三人がそれぞれ撃ったシカのことや山里と坂爪がライフルで撃ったシカのことが思い出される。一人蚊帳の外にいるのが瀬名だった。
夜のミーティングでは、今日は上手く行き過ぎた状況であることやこれが油断に繋がらないようにとの注意があった。
はしゃぐなと言ってもそれは無理なことだろう。
そんな気の緩みは、すでに作業終了時から見え隠れしていた。
後田が、作業が終了後、集合する際に何気なく、銃を銃袋にしまっていたら、坂爪から、
「こら!矢先が人の方向に向いてるぞ」
と大声で怒られたのだ。
「今みたいに、先輩が叱ることはないのか」
「はい。すみませんでした。いまみたいに大きな声で怒られたのははじめてです」
「まぁ、狩猟者の間で今のような叱り方をしたら、ケンカになるかもな。でも、職場だったらどうだろう。危険が伴う作業現場だったら、きっときつく叱るだろう。
ところが、狩猟の現場だと、なぁなぁな対応で、グループの和を優先してしまう傾向があるかもね」
そう言われてみると納得できる。
楽しくやれればいいからと、余程のことがない限り、叱るとか怒るとか注意しあうということはしない。
「君たちが気づいていたか知らないけれど、射撃練習の時に指導されても、きつく言われたことはなかっただろう。どちらかというと、上手くできたことを褒めて、失敗は叱らなかっただろう」
と坂爪も話に加わってきた。
「そうでした」
「俺たちが全然当たらない時でも、良い動きができると褒められて、失中したことを怒られたことはありません」
四人が、それなりに気づいていたことを確認して、坂爪は続けた。
「少年野球やサッカーのような子供たちのスポーツでは、失敗した時はしっかりとそれを認識させないと上手くならない。
けれど、大人になってからしかはじめられない射撃は、失敗したことは本人が一番分かっているし、それにダメ出しするような指導を続けたら感情的になる人もいるだろう。
そうなると子供よりも質がわるく、始末におえない」
と冗談交じりに笑顔で教えてくれた。
「そうだったんだ。褒めて伸ばすってことなんだ」
「あぁ、下手くそなんて怒られたら、やる気なくなっちゃうよ」
「そう考えると、教える方も忍耐が必要だね」
「君たちさ、山里さんの射撃指導で、『同じ失敗は二回まで』って言われたことがあるだろう」
「はい。同じことをやって二回失中したら、次はまったく別のことをやれって言われたことがあります」
「そうだね。君たちは素直にその注意を聞いて実践していたから、それ以上言われてことはなかったろうけれど、三回目に同じことをやって失中すると、あの人は怖いぞ~」
「えっ、どうなっちゃうんですか?」
「黙っちゃうんだよ。怒鳴ったりすると動揺して事故にも繋がるだろうから、グッと我慢しているんだろうな。そんな時は、怖いぞ~」
「そうなんですか。同じことで二回失中して、さらに違うことをやっても結局失中したら教えている人にしてみれば、怒りたくもなりますよね」
「そうじゃないよ。三回失中したことを怒っているのではなくて、その撃ち方では当たらないということが二回の失中で明らかなのだから、それとは違うことをやりなさいってこと。
さらに同じことを繰り返したら、それは命中させるための正しい練習ではなくて、失中する練習をしているってことになっちゃうだろ。
三回目の失中が、まったく違う原因で失中したら、それは前の二回をリセットする射撃であり、仮に失中しても、それは間違った技術であると知ることができるって考えてのことだよ」
「そうだったんだ・・・」
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