第6章 実践 第5話
撃った場所から見ていないと、倒した場所がわからなくなるため、黒澤、坂爪、山里がその場に残って、他のスタッフと学生で回収に行くことになった。
斜面を下り、中間にあった小尾根を乗り越え、再び斜面を登った場所であることは確認して動き出したが、直線二百八十メートル、アップダウンが入ると四百メートルは十分にある移動だ。
竹山は、捕獲現場の下流へ軽トラを移動させてくれているが、ここから引き出すとなると一苦労しそうな感じである。
松山が、沢底で倒れているシカを発見した。ちょうど胸から真っ赤な動脈血が流れ出した後が残っていて、心臓を撃ち抜いていることが一目瞭然だった。おそらく山里が後から撃った方である。
そうなると、もう一頭はこの上の斜面だ。
松山と武井と瀬名が、そのシカを引き出すことにして、後田と柴山、坂爪が最初のメスを探した。
対岸からの無線誘導もあって、メスは直ぐに発見することができたが、弾は頭を撃ち抜いていた。
その結果は、四人にとっては想像以上の結果だった。
散弾銃では、数十メートルが精一杯で、二百八十メートル先のシカなど撃てるはずもない。しかも、一頭はヘッドショット、もう一頭も心臓を撃ち抜いている。
自分たちの実力では、到底できない技術を目の当たりにして、奥の深さを感じずにはいられなかった。
引き出しは予想に反して、すぐ下流まで林道が続いていて、比較的簡単に済ませることができた。
その帰りを待つ黒澤たちの間では、次に経験してもらう失敗について、作戦が練られていた。
この日の結果は、作業者八名で十二頭の捕獲、発砲数は十三発だったから、命中率は、
12頭÷13発×100=92.3パーセント
まで上がった。
SPUE(作業員一人あたりの目撃頭数)は、結局十二頭の目撃となったので、
12頭÷8人=1.5頭/人日
CPUE(作業員一人あたりの捕獲頭数)も同じ、1.5頭/人日。
こんなにも良い成績は、ワイルドライフマネージメント社でも滅多にない。一日に、一頭も捕獲できないという日も現実にはあるのだ。
一日当たりの清掃工場の処理能力は五頭となっているので、この日は五頭をまず搬入することにして、残り七頭を一時的に保管する必要が生じたので、捕獲作業を終了して、あとは手分けをしての処理となった。
清掃工場へは、武井と黒澤が行くことになり、残りは七頭を一晩、または二晩キツネやタヌキにいたずらされないように梱包して、宿泊施設近くに借りている物置に運び込んだ。
宿に戻ると、まずやることは銃器の手入れである。
すでに四人は、射撃練習会でも経験しているだけに、指示がなくても銃のメンテナンスを最優先にしていた。一人発砲の機会がなかった瀬名が早々にクリーニングを終えて、男子学生の部屋へやってきた。
「あぁ、私だけ発砲する機会がなかった・・・」
「残念だったね」
「明日こそは大丈夫だよ」
「そう、大丈夫、大丈夫」
三人は、捕獲に成功した高揚感からまだ抜けだしていない。アドレナリンが体中を駆けめぐり、興奮状態が継続しているのだ。
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