第5章 危機管理 第22話

 利己的な考え方が獣害対策を難しくしていることに、学生達もすでに気づいている。捕獲従事者は、被害者に寄り添う姿勢がなければならない。


 趣味の狩猟の延長線上で「獲れたら良いな」程度に考えていたのでは、いずれ切り捨てられる。その危機感をもたない限りは、後継者の育成にも目は向かないだろうし、事故の発生確率は高まる一方だろう。

 

 野生鳥獣農作物被害への対策は、生息地管理や被害防除とあわせて、個体数調整の三本柱で実施するのが理想だ。


 しかし、現実の被害対策は、対野生鳥獣というより、対利害関係者という様相の方が強い。


 狩猟者の集団に替わって、被害対策を担える人材と組織がいよいよ重要となっているのが現実だ。


 狩猟者との軋轢を回避するためには、被害対策の捕獲を行う場所と狩猟を行う場所とを分離する必要があるだろう。


 すでにその軋轢を解消した事例もある。


 中国地方のある町では、狩猟者に頼っていた捕獲事業を、別の組織に移行し、町おこしの一環として食肉加工に取り組んでいる。


 被害対策で捕獲された獲物は、加工されて商品化されている。


 そこでは被害対策の捕獲に従事するためには、狩猟グループとは別組織に加わる必要がある。


 そこでの捕獲は、第三者が確認してはじめてカウントされる形式となっている。


 こうなった理由は、事件化こそされてはいないが、捕獲頭数の水増し請求があったことがあげられる。


 こんなことになってしまったのでは、お互いにとって良いことではない。


 オール人間軍で戦ってこそ、野生鳥獣の逆襲に対抗することができるのだ。


 利活用の成功事例として大いに参考になる事例であるが、周辺地域や遠方から見学に訪れた自治体に普及していない理由も考えておく必要がある。


 一部の心ない狩猟者の行動や発言が、その関係を崩していくことは、残念でならない。性善説で狩猟者をとらえるか、性悪説でとらえるかで、世間の見方は一変する。


 現実には、圧倒的に善人が多く、手弁当で農業被害者に寄り添って戦い続けている人たちがいるのだが、一部の人の行動や発言が、社会に大きな誤解を与えてしまっている。


 そのような人を排除する自浄作用が、求められている。さらには、後継者の確保と育成がなければ、絶滅危惧種から絶滅種への坂道を転がり続けるだけでしかない。


 一番の問題は、若者達が狩猟や捕獲に魅力を感じるかどうかだろう。「来る者は拒まず、去る者は追わず」という姿勢では、新人など現れるはずもない。積極的に作りに出かけるくらいのエネルギーがなければ、増やすどころか現状維持もできないのだ。


 狩猟が原点であるという考えは、学生達にも共有されつつある。そのため、彼らは全員が地元の狩猟グループに所属し、学校での実習と平行して狩猟も経験していこうとしている。


 決して、山里らに言われたから加入したのではない。


 狩猟者が社会にとって必要だと認めてもらうためには、自分たちのような若者がしっかりやっている姿を見せることが大事だと感じたからに他ならない。


 サーパスハンターを目指しつつも、彼らの本質は狩猟者であり、その姿勢は一狩猟者の矜持として、彼らの心の中に根付いたものなのだろう。


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