第5章 危機管理 第21話
ワイルドライフマネージメント社のスタッフが技能講習を受講していた時の話である。
ライフル銃の講習を受けていた狩猟者の一人が、
「どうして、こんな面倒な講習をやるんだよ。そんな小さい的に当たるはずがないじゃないか」
と講習指導員に文句を言っていた。
「まぁ、法律で決まったことですし、標的紙も基準でそう決まっていますから」
となだめたが、納得がいかない様子で、
「だいたい、山じゃ木に依託して近くの獲物を撃つわけだし、止め刺しなら数メートルの距離でしか撃たないのだから、こんな小さい紙を撃つ必要なんかない。
たまたま仕事の都合で、去年駆除隊を抜けていたから仕方なく受けに来たが、納得いかない」
と引かない。
指導員も慣れたもので、この受講者が予防線を張っていることに気づいているので、毅然と対応して、変に同調したりすることはない。
しかし、その話を聞いたスタッフは、
「そんな至近距離ならばライフル自体必要ないだろうし、ライフルの銃身の精度は百メートルで数センチメートルに集弾するように作られている。自信がないならば、練習すれば良いのに」
と思ったそうである。
結局、その狩猟者は標的紙にようやく一発の弾痕を残すことができたことでようやく講習を修了したのだった。
都市部に住む狩猟者は、免除という特典を受けられる人はいないため、否応なしに技能講習を受講している。
彼らは、日頃から射撃を楽しんでいることもあって、余裕で講習を修了していく。
しかし、彼らにも不満はある。
「俺たちは、射撃と狩猟を楽しむだけなのに技能講習を受けなければならない。有害駆除隊員は本来その技能を証明するためにも受講すべきなのに免除されている」
同じ銃砲所持者でありながら、技能の高い者が受講して、技能の劣る者が免除されるという不合理を怒っているのだ。
世間一般から見ても、その見方は同じであろう。専門的な捕獲に従事しているのであれば高い技術をもっているのは当たり前と考える。
そのために免除されて当たり前と思うのは狩猟者側の理屈であって、それは明確に証明すべきだと世間は見ている。
一方で、射撃や狩猟を趣味としている人には、それほど厳しい技量は求めないながらも、同じように周囲への安全性は保証して欲しいと願うはずだ。
免除を望む狩猟者側の理論は、
「そんな講習をしたら、更新できない人がたくさんでてしまう。そうなれば、有害捕獲をやる者などいなくなってしまう。そんなことになったら困るのは、行政だろう」
というのだ。
逆に、行政マンにも骨のある人材がいて、
「撃っても当てられない人が辞められても、現場の捕獲にはなんの影響もないじゃないですか。
安心して事業を任せられるように、受講手数料の一万二千三百円は行政で負担しますから、ご自身の技量を証明してきてください。それがなければ、有害鳥獣捕獲事業は委託できません」
とまで言い切った自治体もあらわれている。
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