第6章 実践 第1話
新年を迎えてからの実習は、より実践的なものへとなって行った。
本来ならば四年次に予定していた巻き狩りへの参加が実現したのだ。最初は、現場の地形を把握することが重要となるため、勢子として山の中を歩くことからはじまった。
なんとか、ここまで大きな失敗はせずにインターンとしての研修を続けてきたつもりであったが、最初の勢子では、かなりのドタバタがあって苦労することになった。
地図の読み方は、すでに何度もトレーニングしていたが、実際の地形と地形図にはズレがあるもので、小さな沢や尾根を読み違えて、道に迷うことがある。
二人一組で勢子をすることになったのだが、二組が二組とも入るべき尾根の入り口を間違ってしまい、ワイルドライフマネージメント社のスタッフが待機している場所とは違う方向へと移動してしまったのだ。
ワイルドライフマネージメント社の行う巻き狩りの特徴のひとつは犬を使わないことだ。その代わりに、エアホーンを鳴らしながら、勢子がゆっくりと射手の方向へと追い立てるのだ。
エアホーンの音を聞いていると勢子同士の位置関係が良く分かる。途中で、射手のスタッフからの無線連絡でどうも間違った方向に移動しているようだということは判明したが、だいぶ移動したあとだったため、戻ってやり直すにしても時間がもったいないということになり、急遽そのラウンドは中止となって、林道へ集合することになった。
この失敗で、この日の午前中に予定していたラウンドは三回あったのだが、一回となってしまったのだ。
林道に集合すると、口々に「すみません」と謝ったが、誰もその失敗を責めたりはしなかった。
ただ、山里からは、地形図を見せられながら、
「ここを勘違いしてこの方向に動いてしまったのだろう」
と指摘され、その地形図上に四人が歩いたであろう軌跡が書き込まれた。
その日の夜。四人が持っていたGPSのデータを確認すると、昼間山里が地形図上に描いた軌跡とまったく同じ軌跡がコンピュータ画面に表示され、それを見た四人は改めて驚いてしまった。
ミーティングでは、その間違いに関する反省も出されたが、山里からは、
「初心者が犯しやすい失敗だよ。気にせずに、経験するしか上達の方法はないから」
と言われた。
射撃と同様に、怒られるということはない。
しかし、それを繰り返したら、きっと口をきいてもらえなくなるのだろうというプレッシャーは十分に感じられた。
翌日は、再度その場所で巻き狩りを実施することにして、四人にリベンジの機会が与えられた。
前日に間違えた尾根を確認することで、なぜ昨日間違ったのかを地形図上で確認することができた。
これを、また後でと先送りしていたら、この失敗の原因には気づかなかったかも知れない。
昨日は、案内標識の矢印に頼って動いてしまい、その手前から枝尾根に入らなければならない場所を見落としていたのだ。
昨日の今日で、同じ場所でシカの捕獲作業をするのは、あまり合理的ではない。昨日の人の気配でシカたちが移動してしまっている可能性が高いからだ。
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