第5章 危機管理 第16話
「被害のあった畑の持ち主の鈴木さん。ちょうど車を取りにもどったら、銃声が聞こえたからって見にきたところで会ったので、ご案内したの」
「はじめまして」
と武井や学生が口々にあいさつする。
「お疲れ様。ありがとうな」
とおじいさんも嬉しそうだった。
「おぉ、デカイな。子も連れてたんか」
「えぇ、見つけたのはこの三頭だけでした」
おばあさんは、軽トラの荷台に繋がれたイノシシ探索犬を見て、
「この子が探したのかい」
と聞いてくる。
「はい、そうです」
と坂爪が答えると、
「良い子だね」
と目を細めている。
「朝、あいさつに来てくれて、一時間くらいしか経ってないのに、銃声が聞こえたもんだから、はやいなぁっておじいさんと言ってたの」
「あぁ、早かったな。一日中かかるかと思って、昼の用意もまだしてないけど、家に寄ってお茶でも飲んでいって」
とのお誘いがあった。
こういうときは、遠慮せずに甘えるのが良い。
「はい。ありがとうございます」
と竹山が答えると、
「あれ、女の子もおるんだ」
とビックリしている。
イノシシと犬に気をとられていて、スタッフの中に女性がいることに気づいていなかったようだ。
「えぇ、彼女がこの大きいイノシシと子供一頭を獲りました。もう一頭は、彼が仕留めました」
「へぇ、あんたがね~」
とさらにビックリの様子である。
手分けして、イノシシを軽トラの荷台に積むと、鈴木さんのお宅へお邪魔した。
漬け物とお茶を出してもらい、縁側に座りながらしばらく話しをしたが、これまでに箱ワナを仕掛けたり、電気柵を張ったりとそれなりの対策をしてきたが、獲れるのはウリ坊ばかりで、先週から被害がではじめて困っていたとのことだった。
作業開始からわずかに一時間。
明日の様子を確認する必要はあるが、まず間違いなく先週からこのあたりを荒らしていたイノシシを捕獲したことに、学生を含め、スタッフは満足している。それ以上に、結果を直ぐさま出した若い集団と小さな犬の活躍が老夫婦にとっては嬉しいようだった。
午前中に清掃工場へ持ち込んで個体を処理する必要があったので、早々に鈴木宅を辞したが、車が見えなくなるまで見送ってくれた老夫婦の姿は、四人の学生にとっては忘れられないものとなった。
特に、柴山は、自分が目指そうとしている姿と重ね合わせることで、地元で自分が取り組みたい活動そのもののように感じていた。
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