第5章 危機管理 第15話

「まずは、頭数とどの方向へ移動したか。特に、逆走したり、別の射手の方向へ走ったら、その情報の優先度は高いわね。でも、後に抜けられたとか命中か失中かは、終了してからでも構わない情報なので、後回しになるの」


「なるほど!」


「短時間の通信で伝えられる情報は多くないからね。長々と話していたら、必要な情報が伝わらないから、長話は禁止だな」

と武井が説明した。


「無線の通話内容まで、合理的に整理してあるんだ」


「そうだよな。一人がいつまでも喋っていたら、撃つ機会もなくなるかも知れないしな」


「あぁ、命中して倒れてれば、その情報は別に急いで聞かなければならない情報じゃないもんな」


「じゃ、一番優先度が高い情報ってなんだと思う」

と竹山が聞いた。


「えっと、さっきの話だと『頭数』?」


「ハズレ!」


「じゃ、『方向』?」


「残念、ハズレ!」


「ということは、今日の無線の中にはなかった情報だ!」


「そういうこと。さて、なんでしょう・・・」


「えっ~と・・・・・・・・」


 四人ともしばらく考えたが、答えはでそうもなかった。


「残念でした。正解は、『作業中止』」


「えっ!」


「作業区域内に部外者が入った時や、事故が発生した時、まずは『至急!至急!』って誰かが言えば、作業を中止して、全員獲物が目の前を走っていても撃たずに脱包するの」


「なるほど、安全第一ってことですね」


「そうだね。何が発生したかは後から伝えれば良いけれど、ともかく『作業中止』が最優先となる」


「そういうことは、どんなところから学ぶというか思いつくんですか」


「基本は、スタッフミーティングで誰かが必要じゃないかって言えば、全員で意見を出し合って、優先順位を決めたりする。その他には、ハンドサインというのもあるよ」


「それって、どういうやつですか」


「銃を構えると、無線操作ってできないでしょう。それに寝屋の近くで声を出すわけにも行かないから、手をグーにして、肘を九十度曲げて上に拳を上げれば『止まれ』とか、チョキで両目を指して、そのあとにある方向を指させば『そっちを見ろ』とか『獲物を発見した』ってなる」


「まるで特殊部隊ですね」


「あぁ、相手から撃たれることはないから、そこまで訓練されたスタイルがあるわけじゃないけれど、考え方は近いかもね」


 そこへ、坂爪が軽トラックを回してきた。その後から、もう一台軽トラが続いてくる。


「お待たせ」

と軽い感じで、坂爪が車を止める。それに続いて、後ろの軽トラから老夫婦が降りてくる。


「おぉ、獲れたね~」

と満面の笑顔で声をかけてきたのは、おばあさんの方だった。

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