第5章 危機管理 第14話
少しばかり、そんな風にして犬を遊ばせると、坂爪は「待て!」と声をかけて犬を座らせて、「よくやった」と満面の笑顔で褒めていた。
その間、竹山は、松山と瀬名に指示して各部の計測を始めていた。柴山も慌ててその手伝いをはじめた。
大きいのが母親だろう。
乳房も張っていて乳汁も出る。
体重は七十キログラムくらいだろうか。
どこに命中したのかと思って、調べると、右目の下に射入口があって、弾は頭の中に止まっているようだった。
次に、坂爪が小さい子供の方の計測を開始したが、こちらはウリ模様が消えてはいるが、まだまだ小さく二十キログラムは超えていないだろう。
弾は右脇から入って、反対方向に抜けていた。
位置的には心臓を撃ち抜いているようだった。
「松山、瀬名さん。撃つところ見た?」
「あぁ、バッチリ見た。この鞍部に向かって、斜め右下方向から三頭が一列になって登ってきたんだ。
親が、尾根を超えようと進行方向を変えて登りはじめたところをほぼ正面から一発撃って命中。
驚いた子供たちが左方向へ走ったところで、二発目。そこで、再装填したけれど、三頭目はあの尾根の裏側へ逃げていった」
興奮気味に一気にその様子を語ってくれたが、連射で二頭。
しかも、一頭はヘッドショット。もう一頭も心臓を撃ち抜いている。これって、後田に言わせれば、神業だ!
そこからは、スリングテープを脚と鼻先に結んで、下まで引き下ろした。
農道にでると、武井と後田もイノシシを引いて出てくるところだった。
「お疲れ様」と声を掛け合いながら、武井の撃ったイノシシの様子をみると、左の首の後に命中して、右の脇腹の方向へ弾は抜けていた。
心臓には入っていないが、即死だったことは想像できる。
農道脇の水路手前にイノシシを置くと、坂爪が車を取りに行くことになった。
坂爪が戻るまでの間、学生四人は、各人が見た現場の様子を語り合った。
「犬の動きが慎重になったとたんに、イノシシがガバーって感じで飛び出したけれど、親しか見えなくて、子供は俺には見えなかった。だけど、坂爪さんは『三頭行った!』って、直ぐに無線入れてた」
「あぁ、『竹山さんの方へ、三頭行ってる』ていう無線で、竹山さんが直ぐさま、体勢を整えたら、下からガザガザって音が近づいてきた。でも、慌てて走って逃げてるっていう感じじゃなくて、トコトコってのんびりした感じだった。まぁ、一発撃ったあとの子供の動きは早かったけれどね」
「そのあと、『尾根沿いに武井さんの方へ行ってる』って無線で、尾根を見ていたら、直ぐ下を斜めにトラバースしてきた」
「銃声は、するけれど命中したのかどうか分からないし、そっちに行ったっていう無線だけだから、逃げちゃったのかと思ってた」
「なるほどね。君たちには、無線での情報が足りなくて、ドキドキしてたわけね」
と言ったのは竹山だった。
「私たちの無線には約束事があって、伝える情報に優先順位があるの」
「へぇ~」
四人が同時に声をあげて驚いた。
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