第5章 危機管理 第10話
その他にもまだまだ問題はある。
シカを効率的に捕獲するために、シャープシューティングという考え方が日本に紹介されるやいなや、多くの自治体が飛びついた。
狩猟者による捕獲では、十分な成果が得られていないと考えていた先進的な自治体ほど、その動きは早かった。
しかし、実施に必要な要件を理解し、実行できた事例は残念ながらほとんどなかった。
この失敗から、外国では有効であっても、日本では運用できない当てにならないものと判断されてしまい、あっという間に廃れた感もある。
本来、シャープシューティングには、三種の神器と呼ばれる要件が必要となる。
その第一は、小口径ライフル、第二はサプレッサー、第三は夜間発砲となる。
第一の小口径ライフルは、反動が小さく、連射した場合にも命中させやすいということから必要なアイテムとされるが、鳥獣保護法では五.九ミリメートル以下の口径は狩猟用として許可されることがないことから、外国で使用されている.223口径のライフルを使う場合には、特別に許可を受ける必要がある。
第二のサプレッサーは、消音器のことであるが、これは銃刀法で所持することすらも禁止されている。
第三の夜間発砲は、鳥獣保護法で禁止されており、すべてのアイテムが日本ではそのままに運用することができないものだった。
それを日本流にアレンジした方法が提案されたが、それには高い射撃技術が必要であった。
そのことを十分に理解しないまま運用された事業では、狩猟者の未熟な射撃技量が大きな障害となってうまくいっていないのだ。
捕獲の専門家と思われがちな狩猟者であっても、実は銃や装弾の性能についてはまったく知らない場合が多い。
頭部へのピンポイントの狙撃が必要なシャープシューティングで、散弾を使用することなどは考えられないことであっても、求められる技術の意味を理解できなければ失敗するのは明白だ。
新規取り組みは、行政の予算請求においては魔法の杖だろう。
しかし、現実にはそんな魔法はない。多くの研究事例をみても、それが普及しないのにはいろいろな理由が存在する。
シャープシューティング同様に高い技術力が従事者に求められる技術では、普及は難しい。また容易な方法であっても経済性に問題がある場合も多い。
いずれにしても、そのような魔法の杖には、魔法を使いこなす魔法使いの存在が不可欠であり、俗人には成し得ないことでしかない。
素人でも、安価に、そして容易に取り組める方法や体制の方が、よほど効果的であり、継続性も見込める。
結局は、地道に獲り続けることが一番良いのだ。
発注者側にも捕獲に関する正しい知識は不可欠である。
今は過渡期であり、やがては共通理解がなされるようになるだろうが、それまでは繰り返していくしかない試行錯誤が待っている。
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