第5章 危機管理 第9話

 食肉加工した場合の歩留まりの悪さも野生鳥獣では、安価に提供することを考えた場合には大きな課題となる。


 北海道のエゾシカほどのサイズであっても、ニュージーランドの養鹿業で利用されているアカシカに比べれば小さく、国際競争力があるとは思えない。


 南に行けば行くほど、ベルクマンの法則にしたがってシカのサイズは小さくなる。


 西日本の小さなシカでは、安価な肉の提供は夢のまた夢ほどの状況だろう。


 さらに、日本人は食の安全についておそらくは世界一厳しい国民かも知れない。


 そのため、野生鳥獣の肉についても食品衛生管理法の下で厳しく管理する必要がある。


 その入り口として、ガイドラインを作成している自治体もあるが、その内容には捕殺から処理場まで二時間以内に搬入しなければならないとか、内臓を撃ち抜いた個体は汚染されているので扱えないとか、多くの制約がある。


 捕獲から二時間以内に搬入するためには、もし午前中に一頭を捕獲したとすれば、その日の捕獲作業はその場で中止して引き出し作業に移行しなければならない。


 被害対策としては、一頭でも多く捕獲すべきところ、その作業を中止しなければならないというのはどういうことだろうか。


 内臓を撃ち抜いた個体は扱わないとすれば、銃を使う捕獲は実施しにくくなる。ワイルドライフマネージメント社におけるワナでの捕獲効率と銃による捕獲効率を比較すれば、圧倒的に銃による捕獲効率の方が上回るが、利活用を前提とされたらその手段を捨てなくてはならなくなる。


 確かに、命をいただくという意味の「いただきます」という日本独特のあいさつからも、奪った命を粗末にするのは「もったいない」という心情はわかる。


 ジビエ料理に今後の可能性を考えるとすれば、ジビエ料理に力を入れているお店で、「入手できた時だけ」の供給スタイルから希少価値を前面にすることで、ある程度の話題性は確保できている。


 これを普及させるには、長い目をもつことが必要だろう。それを実現できるかどうかは、若い世代のサーパスハンターのひとつの課題となるとも言える。


「もったいない」に囚われてしまって、本来の目的を見失えば、延々と野生鳥獣による被害に怯え、生産者の耕作意欲を失わせることにもなりかねないということを忘れてはならない。


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