第5章 危機管理 第7話
結局のところ、現場の実態は会議室にはその一部すらも伝わっていないのに、そこで事業が決定されていく。
事件は現場で起こっているのに、彼らにとっては会議室での予算書であり、問題の本質を理解していない検討会の席上での出来事であり、それがすべてなのだ。
こうなると、現場はやりきれない気持ちをもちながらも、作業を続けることになる。
自動通報システムを導入して省力化しようとしたのも意味がなく、地元狩猟者に見回りを委託することになったのも、もう驚くことではなかった。
他の現場での経験値から、必要と思われる作戦を提案しても、それを一蹴され、最後にはその対応を求められる理不尽さは、現場にとっては耐え難いものとなる。
それでも発注者の意向に沿った事業を実施しなければならない。
成功への道筋が見えているにも関わらず、それを実施できないもどかしさは当事者でなければわからないかも知れないが、
「最終的には思ったほどの捕獲数がなかった」
と責められれば、もう呆れるしかない。
こんな現場がまだまだ存在しているのが、現状なのだ。
このような状況があるということを知っていないと、学生たちは現場で戸惑うことになる。
簡単に捕獲してと言われても、問題の本質をしらなければ、捕獲が逆効果になることすらある。それを正しく伝える力は、確かな捕獲技術と同じくらい重要なものである。
発注者との交渉もサーパスハンターとすれば重要な仕事となる。また発注者側の戦略や作戦の大きなミスを指摘、修正する提案は、最終的には自分たちが行う捕獲という戦術やそのための兵站というところへの大きな負担を排除し、事業自体の成果をより高いものに仕上げることに繋がる。
どんな業界でも、事業の初期段階では、同様のことが発生する。
過去、経験のない出来事に柔軟に対応できる行政マンは決して多くない。先例のあることを扱わせると極めて優秀であっても、危機管理的な対応が苦手というのが普通だ。
危機管理はまさに有事である。有事には有事の指揮官が必要なのだ。野生鳥獣との戦いを危機管理と捉えるならば、優秀な指揮官を行政も配置する必要があるのだ。
やがては、それが次第にこなれて日常となり、成熟した業界へと成長していくが、一方で硬直化して、新規参入者を排除したり、癒着を生んだり、マンネリ化してしまう。
そんな失敗を繰り返さないためにも、発注者側にも成長を求める必要があるが、まだまだ失敗の連続の中にこの業界は足踏みしている。
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