第4章 練習 第27話

 農村では、戦後の自由社会の中で大幅な収入の増加と職業選択の可能性が広がり、その子女に対して、高等教育を受けさせるようになった。


 その結果、若年層は田舎には帰らず、都市部で暮らすようになり、核家族化が進み、田舎では三ちゃん農業と呼ばれるような高齢化現象が生じた。


 結局は、自分たちのような苦労を子供たちにはさせたくないという親心があったにせよ、自分の畑を継いでくれる後継者の育成には失敗したわけである。


 この流れと狩猟者の減少はリンクしている。


 銃に対する国民の抵抗感は、戦争に由来するのかも知れない。日本で銃を所持する必要性については、なかなか理解されない現状もあるだろう。


 しかしながら、現在でも、銃砲所持者は全国で十万人以上いる。全国的にみれば、中山間地域に狩猟者が多い傾向があるだろう。


 その中で、比較的年齢の若い所持者は都市部に暮らしている。彼らは、田舎には住まない。けれど狩猟者としての潜在力はかなり高いものをもっている。


 日常、そうそう簡単に猟野へ出かけることができない都会暮らしの狩猟者は、射撃場で射撃練習を行うことが多い。


 逆に簡単に猟野へ出かけることのできる山間地の狩猟者は、射撃場で射撃練習を行うことはあまり多くない。


 そのため、都市部の若い狩猟者の射撃レベルと比べると大きな差が生じることになる。


 都道府県で、広域捕獲隊を編成すれば、まだまだ野生鳥獣と戦うための戦力は確保できる状況でありながら、縄張り意識が邪魔をして、その戦力の投入を妨げているのが現状だ。


 趣味の狩猟は、結局は遊びと同じで、仲の良い者同士が集まって楽しく過ごせれば良いのであって、遊び場を他者に使われるのは面白くないのだ。


 結局は、農業後継者の育成の失敗と同様に、狩猟者の育成にも失敗しているのは、当事者の意識の問題に他ならない。


「これまでのつながりを考えれば、ボランティアで活躍してくれた狩猟者を大事にして、その活動に報いるのは当然なことだ。


 手弁当で、地域の農作物被害対策に汗を流してくれたのは、紛れもなくその地の狩猟者なのだから、それを忘れてはいけないだろう。


 ただ、それでは対応できない状況が発生しているのも事実だ。その問題を解決するために、新たな担い手を育成、確保するのは行政としても考えなければならないことだろう。


 狩猟者が後継者を育成できるのであれば、それが費用対効果を考えても合理的だろう。


 でも、ここまで高齢化と減少が進み、十年間で半減させようという国の目標を達成するためには、別の方法があっても良いはずだ」


 それが、法改正で取り入れられた認定事業者制度なのだろうことは、四人には良くわかる。


 しかし、その認定事業者であっても、兵站である人材育成機能まで有している法人はあるのだろうか。

 

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