第4章 練習 第26話
その夜、山里がある大学の公開講座で使う予定のパワーポイントを見せながら、いろいろと話をしてくれた。
そのパワーポイントは、囲炉裏端の画像からはじまった。
「なぁ、囲炉裏って知ってる?」
「はい」
「じゃ、囲炉裏の上にあって、鍋を吊しているこの道具の名前知ってる?」
「いえ」
「自在鈎(じざいかぎ)って言うんだ。じゃ、囲炉裏においてあるこの小さいシャベルの名前は?」
「いえ」
「十能(じゅうの)って言うんだ」
そんな道具の名前に関する話も、学生四人には新鮮な知識であった。
「昔は、囲炉裏端の夜話で、狩猟の面白さや野生鳥獣の生態などが語られ、それを聞いた子供たちが、『大きくなったら俺も山で狩猟をするんだ』という意識を作ることができた。
高度経済成長で、農村から人口が都市に流出することで、こういった狩猟の継承もなくなり、農村では過疎化と高齢化が進んで、衰退してきている。
その衰退に付け入るように野生鳥獣が人間の生活圏へと進出してきているのが、現在の『野生鳥獣の逆襲の時代』だ」
戦争で主な都市は荒廃し、人も富みも一時的に農村へと流れ込んだ。
その流れに乗って、都市の富裕層のものであった銃器も農村へと流れていった。
農地解放や高度経済成長で、一気に国民の生活水準が高まったことから、俄ハンターが大量に出現したのが昭和五十年代だったろう。
戦前の富裕層による狩猟は、一種のスティタスだったが、戦後の狩猟はレジャーのひとつであり、熱しやすく冷めやすい国民性を考えれば、その盛衰は当然の結果だとも思える。
結果として、狩猟を継続したのは、猟野が近い地方の農村部であり、都市部では狩猟から射撃へと移行していく傾向があった。
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