第5章 危機管理 第1話
ライセンス取得後、現場を経験するとともに、集中した射撃練習で、四人のスキルは次第に向上していった。
これまでは、捕獲事業現場でも補助者あるいは見学者の域を脱していなかったが、冬からの捕獲現場では、従事者として参加することになった。
そうなると、今度は学生というよりもインターンという扱いが必要になってくる。また彼ら自身にも、学生ではあっても事業の一端を担う姿勢が求められる。
この頭の切り替えができなければ、いつになってもアマチュアであり、サーパスハンターなどは夢のまた夢だろう。
そこで山里らは、講義のたびに現場に関する話題を増やしていった。
ワイルドライフマネージメント社では、野生鳥獣による農林業被害をある種の『危機管理』として捉えるようにしている。
そのノウハウを、サーパスハンターを目指す学生には、惜しげもなく注ぎ込んでいる。
野生鳥獣による農作物被害が発生すると被害農家は、直ぐさま行政にその対策を訴える。
訴えを受けた行政は、必要ならば研究者に調査を依頼し、その対策案を受けて狩猟者へ捕獲を依頼したり、防護柵を設置したりと行政サービスとして対応する。
確かに、行政マンはその道のプロであり、調整役としての存在は大きい。また研究者も研究のプロとしてその対策案にはそれなりの責任をもって提案している。
一方で、捕獲を依頼された狩猟者は、残念ながら捕獲に関してはアマチュアでしかなく、被害農家や行政や研究者の要望に、十分応えることができていない。
しかし、行政マンも研究者も捕獲に関しては素人であり、結局はアマチュアの狩猟者に頼らざるを得ない。
そのため危機管理の主役は、結局は狩猟者頼みとなる。
だが、ワイルドライフマネージメント社が考える被害対策の主役は意外に思われるが、彼らが育成しようとしているサーパスハンターや狩猟者ではなく、被害農家そのものであった。
野生動物による農作物被害が発生すると、柴山の祖父のように行政に連絡して、住民サービスの一貫と位置づけて狩猟者へ捕獲依頼をするというのが、これまでの流れだった。
野生鳥獣による農業被害の原因としては、温暖化により積雪が減少したことで冬に死亡する個体が減るとともに、生息域を拡大しているとか、戦後の林業行政により山に実のなる木がなくなったことで、餌を求めて野生鳥獣が畑に出没するようになったとか、狩猟者が減少して狩猟圧が下がったために生息数が増えたとか言われている。
確かに、積雪量の減少は生息域の拡大に繋がった可能性はある。
しかしながら、山に餌がなくなったとか狩猟圧が減少したというのは、どうも科学的には根拠がない。
その証拠とすれば、狩猟者の減少が著しいにも関わらず毎年の捕獲頭数は増加しているのだ。
正しい捕獲数の報告がなされているとするならば、狩猟圧が減少したとは考えにくい。
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