第4章 練習 第22話

 秋も深まる頃には、いよいよ技量は向上していた。


 その段階で、ワイルドライフマネージメント社のスタッフの練習会で、スラッグ弾による静的射撃と動的射撃が行われることになり、実習の一環として参加することになった。


 スラッグ弾による静的射撃は、五十メートルの射距離で、板に貼り付けた紙の的を撃つことになる。標的紙の中心が十点、中心から遠のくにつれて点数が下がることになる。各人が十発撃って、その結果が何点かで競うことになる。


 動的射撃は、板に標的紙を貼るのは同じだが、標的紙にはイノシシの顔が左右に向けて描かれている。


 この標的を貼った板が台座上に固定されていて、レール上を左右に動くのだ。まるで、イノシシが走っているのと同じような状況となるため、大物猟に極めて近い感じで練習することができるのだ。


 静的射撃では、まず銃を机の上に置いたガンレストという銃を固定する台に乗せて撃つことから指導された。


 これは、各人の銃身の癖を知るためだと説明されたが、銃身の癖というのは、はじめて聞くものであった。


「銃身の癖って何ですか」


「普段、君たちは銃身の上にあるリブとリブの先端にある照星を使ってクレーを狙っているだろう」


「はい」


「リブは、銃身にハンダ付けされているのだけれど、必ずしも真っ直ぐ平行についているわけじゃない」


「そうなんですか」


「あぁ、そればかりでなく、薬室の大きさも若干異なることから、スラッグ弾を装填したとき、装弾が銃身の中で必ずしも真っ直ぐに装填されているとは限らないんだ」


「えっ、どういうことですか」


「まずは、柴山君の上下二連だと、上の銃身と下の銃身とでは、同じように狙ってもスラッグ弾の着弾が違うということ。銃身同士の接着やリブとの関係もあるからね」


「もう一つが、薬室の中でスラッグ弾の先端が、ちょっとズレている場合。これは、薬室がちょっと大きいと、装弾を装填したときに、先端が下を向くことになると説明すればわかるかな」 


 そう言うと、山里が左手で薬室を表現するように筒状にして、右手で装弾をそのなかに入れて説明してくれた。それを見ると確かに、大きめの薬室に装弾をいれると先端が下を向くことになる。


 そうなると、発射直後にスラッグの弾頭は、薬室の少し前の重心でバウンドすることになる。スラッグ弾の弾頭は、銃身の直径に比べればわずかに小さいので、このようなことが発生することになる。


 坂爪の上下二連は、下の銃身で撃つと、弾頭がバウンドした汚れが薬室の五センチメートルくらい前に付着する。


 上の銃身で撃つと、銃口の手前五センチメートルくらいの右側に汚れが付着するそうだ。


 そうなると、上の銃身で撃ったスラッグ弾の弾着と下の銃身で撃った弾着とが、同じ狙いであっても異なることになる。これが銃身の癖ということだ。


 鉛の弾頭のスラッグ弾を撃つときには、このバウンドして付着する汚れがなかなか落ちないので、クリーニングに苦労するそうである。


そこで坂爪達は、スラッグ弾の弾頭にグリスを塗りつけて撃っている。そうすると全くと言って良いほど汚れが付着しないそうである。


 ここでも新しい知識を得ることができた。

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