第4章 練習 第21話

 学ぶべきことはたくさんあるだろう。


 そのすべてが正しい知識であるとは限らない。


 古くから狩猟者の間で語られていたことには、思いこみや間違った知識も少なくない。それが正しいかどうかは、初心者には見抜くことなどできはしない。


 それでも、ここで学んだことから、「それって本当?」と疑問に思って見ることの重要性には気づかされた。


「クレー射撃なんか練習しても、現場じゃ役に立たない。スラッグで撃つのだからスラッグの練習するのが当たり前だろう」


などと言われても、それは間違いだと今ならわかる。


 ある程度の射撃技術が身についたところで、山里からも学生たちだけで自主練習に行っても構わないという許可がでた。それまでは、山里かワイルドライフマネージメント社のスタッフと必ず一緒に練習するようにと指示されていたが、安全な取り扱いと、曲がりなりにもラウンドするだけの技術が身についたと判断されたのだ。


 ただし、いろいろと周囲から声を掛けられるだろうが、教えてある練習方法以外の練習方法を勧められても、丁寧にお断りして、自分達の練習方法に専念するようにと念を押されていた。


 なかなか四人揃って練習というわけには行かなかったが、時には松山の父親が一緒に練習に連れて行ってくれたりすることもあった。集中的に練習を重ねた四人は、すでに松山の父親を凌ぐほどの技量を身につけている。


 学生たちだけで練習に行くと、射撃場で出会う先輩射手達は、たいてい驚くことになる。二十代の若者が、黙々と練習を重ねていると、確かに周囲の人たちから、いろいろと声がかかる。一番声をかけられるのは、瀬名である。


「お姉ちゃん、上手だねぇ」

というのが、ほぼ決まった台詞だ。


「大学生かい」とか、「何かのサークルかい」というのが、それに続く質問である。


 中には、「挙銃が上手いね」などと声がかかることもある。


 そこそこ話が弾むと、次には、教えたがるのが、いつもの流れだ。


「後ろを撃っている」とか、「もっと早く撃った方がいい」とか、「スタンスはこうだ」なんていうこともある。


 そんな中で、一緒に練習していると、教えたがっている人たちの銃の取り扱いで「危ないなぁ」と思うようなところが多々見えてくる。


 一番多く見受けられるのが、引き金に指がかかっている状況だ。ほとんどの人が、装填時から、すでに指が引き金に掛かっているといっていい。


 四人は、学校での指導もあって、銃を待機位置に置いて、クレーの放出を要求するかけ声をかける直前まで引き金に指をかけることはない。この動作は、四人とも完璧にできている。


 次に多いのは、銃口が人の方向を向くことだ。銃をかんぬき状に持つことで、容易に銃口が人の方向を向くことになる。


 特に八番から戻ってくるところで、そのような行為が目立つのだ。さすがに、装弾が装填された状態で銃口が人の方向を向くことはなかったが、普段の練習から厳しく指導されていたせいか、他人の危険な行動が良く目に留まるのだ。


 父親よりも年上、時には祖父と同じ年くらいかと思われる先輩射手に、「危ないですよ」と直接声をかけることは、機嫌を損ねられることもあってはばかれるが、学生達だけの練習の方が安心して練習に打ち込めるのであった。

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