第4章 練習 第23話

 実際に四人が撃ってみると、四人とも中心を狙っているのに、弾着はバラバラだった。


 単身自動銃である松山の場合、単身だからほぼ同じあたりに弾痕が集まるが、他の三人の上下二連だと、上の銃身と下の銃身とで明らかに弾着が異なっていることがわかった。


 この弾着のズレ、銃身の癖を忘れないようにすることが大事だと教えられた。


 銃身の癖を把握した段階で、いよいよ座った状態で銃を構えて標的紙を撃つことになった。ここでも、直ぐに撃たせてもらえるわけでなく、構え方からかなり細かく教えられた。


 最初は座る向きから指導された。順番に整理すると、

 ①まず座ったら、目を閉じて銃を構える。

 ②目を開き、銃口が標的紙の方向を向いているか確認する。


 このとき、銃口が標的紙の方向から若干ズレていることがある。この場合、身体を捻って銃口を標的紙の方向に向けてはいけない。


 ③再度向きを改めて座り直して、①、②の動作を繰り返す。


 これによって、自然体で銃を構えた時に銃口が標的紙の方向を向いたことになる。身体を捻って撃ったのでは、発射の瞬間に銃口が横に動くことになるので、まず必ずやらなければいけない動作である。


 ほとんどの射手は、そんなことは気にせずに撃っているらしいが、身体の向きを整えるということは、クレー射撃のスタンスと同じで重要な意味がある。


 すでに四人は、そのことが十分に理解できた。


 次に整えるのは、高さとなる。


 ここでのポイントは、なるべく背筋を伸ばせということだ。


 どうしてもクレー射撃をしている姿勢をとりがちで、猫背の状態で銃を構えてみると、先台を支える左手が辛く、標的紙を一生懸命狙っても狙っても銃口がふらふらとしてしまうのだ。


 背筋を伸ばし、銃をグッと身体に引きつけると、銃の重心が身体の軸に近づくことになる。猫背の場合、重心はずっと前にあって、身体の軸からは遠くなっている。


 このため、引きつけて銃を構えてみると、猫背だったときとは違い、銃口の揺れが小さくなる。そればかりか、長く構えていても左手は辛くならないのだ。


 実際に、坂爪が見本をみせてくれながら、山里が学生達の姿勢を手直ししてくれた。


 ようやく、ここまできて標的紙をバンバンと撃てるかと思えば、まだまだであった。


 銃身の癖は把握しているわけだが、撃ち方の癖を確認する必要があるということだった。


 銃身の癖を勘案して、標的紙の中心から癖の分だけ調整して狙えば弾着は中心に集まることになるはずだが、現実にはそうそう上手くいくものではない。


 座った姿勢で銃を構えて実際に標的紙の中心を狙って撃ってみると、固定した時とはまた違う場所に弾痕が寄ってしまうのだ。


 これは、引き金を引く瞬間の癖であり、多くの場合は、弾着が右下方向へズレる。


 無意識の身体の反応が原因だが、この癖がひとりひとり違うのだ。銃身の癖と撃ち方の癖とをミックスしたうえで、中心からどちらの方向へどの程度狙いをずらせば弾着が中心に集まるかを考えながら撃たねばならないのだ。


 結局のところ、松山は中心の少し上、柴山は上の銃身の場合はほぼ中心で良いが、下の銃身の場合、中心の左側を、逆に後田の場合は、上の銃身が中心の左、下の銃身がほぼそのままで良いことがわかった。


 瀬名の銃は、どちらも中心の左上を狙うのが良いことがわかった。


 勿論、立った姿勢で撃つ立射でも、同じように確認をすることになったが、立射でも銃の重心を身体の軸に近づけるようにすると銃が安定することになり、クレー射撃とはまったく異なる姿勢が必要だということは、新たな知識として四人に伝えられた。


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