第4章 練習 第17話

 山里は、オリンピックと同じルールで一ラウンド射撃をしてみせてくれた。


 オリンピックのルールは国際ルールと呼ばれていて、スキートでは射撃ベストの右脇腹に黄色いテープ状のマークが縫いつけてあって、そこまで銃床を下げたところで、コールをすると、三秒以内にランダムにクレーが放出され、それを確認してから挙銃動作をはじめて撃破するということになっていて、三人が経験した今日の射撃とはまるで違うレベルのものだった。


 クレーの放出される順番も複雑で、一番でプールをまず一発。


 これをシングルと呼ぶとのことで、同時にプールとマークから放出された場合をダブルと呼び、プール→マークの順番で二発。


 二番と三番で、シングルプール、プール→マークのダブル。

 四番で、シングルプール、シングルマーク。

 五番と六番で、シングルマーク、マーク→プールのダブル。

 七番で、マーク→プールのダブル。

 四番に戻って、プール→マークのダブル、マーク→プールのダブル。

 八番で、シングルプール、シングルマーク。

 これで、合計二十五枚。


 撃つ順番を覚えるだけでも大変だ。


 それを山里が、淡々と撃っていく。


 終わってみれば、五番のマーク→プールでプールを失中しただけで、二十四点という結果だった。


「すげぇ~」


 三人は、自分たちが撃った感覚から、山里の射撃が神業のように思えた。


 あのレベルであれば、山でも怖い物はないだろう・・・。


「山里さんのレベルになるには、どのくらい練習する必要があるのでしょう」

と柴山が誰とはなしに訪ねた。


「山里は、百枚撃って九十点以上撃つAクラスって呼ばれるランクだけれど、百枚撃って八十点から八十九点撃てるBクラスになるまでには、彼に言わせると三千~五千発の練習を半年やれば到達できるそうだよ」

と黒澤が答えてくれた。


「ただ、ダブルのように交差するように逃げるシカはいないから、シングルで八十パーセント命中させることができるようになることが当面の目標だろうな」


「三千~五千発を半年かぁ・・・」


「練習しなければ、上手くはなれない。練習は嘘をつかない。若いほど、上達は早いから、頑張れば大丈夫。そのレベルまで行けば、狩猟者の大会でも上位に入賞できるレベルにはなれるから、サーパスハンターを具現化するには、わかりやすい目標だろう」


「なるほど・・・。グループ内で一目置かれるためにも、射撃で認めてもらうのが合理的かもな」


 わずか百発の練習だったが、学んだことは多かった。


 体と頭は疲れているが、もっともっと撃って上手くなりたいと三人は思っていた。


 その後、毎月の練習会には、できる限り四人は参加するようになり、夏休み中の集中的な練習で、その技量はメキメキと高まっていった。

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