第4章 練習 第16話

「それでは、今日の講義で何か質問があれば聞いてください」


「えぇと、見越しの距離が射台ごとに変化するというのは、実感したのですが、なぜ変化するのか説明してもらえますか」


「おっ、なかなか深い質問だね」

と言ったのは、坂爪だった。


「じゃ、坂爪に任せる」

と山里は回答を坂爪にゆだねた。


「それでは、これを見て」

と坂爪が用意したのは、二つの空薬莢だった。


「一方をクレー、一方を照星と考えてね。各射台からセンターポールまでの距離はすべて同じだから、弾がクレーに命中するまでに必要な時間は、同じということはわかるかな」


「はい」


「では、どの射台でも見越しの距離は同じで良いとうことになるけれど、実際は違って見えたということからの質問とすれば、この二つの薬莢を動かさずにいろいろな角度から見てごらん」


 そういうと、テーブルのいろいろな方向から学生に二つの薬莢を眺めさせた。


「なるほど。見る角度で、同じ見越しの距離なのに、変化するんだ」

 四人は、坂爪の道具を使った説明で、完全に納得した様子だった。


「その他はどうかな」


「えぇっと、今日はトラップと同じように肩に銃を付けた状態からコールしましたが、皆さんのように挙銃するのはいつ頃になるのでしょう」


「おっ、これも前向きな質問だね。じゃ、これは竹山に任せようか」


「はい。まずは、しばらくの間、今日と同じで見越しの距離とクレーとシンクロしたスイングの練習が必要です。


 それが掴めた段階で、挙銃動作が練習に加わりますが、その前に自宅での挙銃練習が必要になるので、皆さんには今日から自宅での挙銃練習が宿題となります。


 やり方は、まず部屋の中で天井と壁の境。部屋の隅の角って考えれば良いかな。そこに、照星をあわせるようにして、ゆっくりとガンポジションから挙銃姿勢を完成させるようにします。


 これを、十回を一セット、十セットやってください。なるべく毎日続けることが大事で、練習をサボっているとしっかりバレますから手を抜かないようにね」


「まぁ、良いだろう。何度か練習するうちに自分でもわかってくるから、まずは今教えられたように練習することだね。竹山、実際に家でやっている練習をやってみせてやって」


「はい」

 と答えると、竹山は控え室の隅を狙って挙銃動作を繰り返してやってみせた。


「なるほど。わかりました。まずは、自宅でのトレーニングということですね」


「あぁ、でもまずはではなくて、これからずっとっていうところかな。射撃歴二十五年になるけれど、今でも俺はやっているよ」

と山里は言った。


「へぇ~、そうなんですか。それと、僕と後田君は銃を銃砲店に預けているので、毎日の練習ができないのですが・・・」


 ベテランの山里までが、毎日可能な限り練習していると聞いて、半端じゃない人たちなんだという実感が沸いてくる。


「そうかぁ、それは残念だね。学校に模造銃があるからそれでも良いので、毎日触るようにした方が良いかな」


「わかりました」


「その他は、どうかな」


「あのう、さっきはメンテナンス方法を教えてもらっていて、山里さんの射撃を見ていないのですが・・・」


「了解。時間の余裕があるから、このあとの練習を見学して行って。その他に、なければ、今日はここまでということにしましょう」


時間の許す限りということで、四人は山里らスタッフの練習を見学することになった。

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