第3章 入学 第27話

 先々週の坂爪の犬の講義でも、驚きがあったが、ここまでワナの捕獲が進んでいるとは思いもよらなかった。


 ワナでの捕獲は、考えてみれば太古の昔から行われていたわけで、その見回りを省力化するというのは、経済性だけでなくいろいろな問題を克服する工夫がなされていることになる。


 最近では人工知能を使った囲いワナなどが研修会などで発表されているのは知ってはいたけれど、どれも高価でその経済性からなかなか普及していないと聞いていた。


 また、そのような省力化する機器を導入しても、捕獲効率があがるわけではないから、導入した自治体の多くは、失敗だと判断しているとも聞いていただけに、目の前にある機器が金額的にも性能的にも実用化されていることが意外だった。


「このシステムは、発注者の県とワイルドライフマネージメント社と警備会社が共同開発したもので、すでに過去四年間の運用実績があって、次第に普及しつつある商品なんです」


 という武井の説明を受けて、ここでもワナと同じでワイルドライフマネージメント社が開発に関係しているだと感心してしまった。


「先生、こういうシステムを開発できれば特許も取れますよね」


「そうだね。でも、ワナはそれこそ太古の昔からあるわけで、新しいワナを開発したと言っても、基本的に獣の脚をくくるとか、逃げられなくするという原理は一緒だから、そのような商品で特許を申請するのは先人達に対して失礼だと僕は思っています。


 特許にこだわると、新たな開発の妨げになることもあるから、あまり好ましいことではないでしょう。自動通報システムのように、これまでにはなかった本当に新しい技術であれば特許ということも可能でしょう。


 ただいずれにしても、そこで儲けようというのは正直なところ料簡が狭いなぁと思います。メーカーならば、それで儲けるのが当然です。でも私たちが儲けるべき場所はそこではないということです。私たちが儲けるべきは、」


「捕獲現場」


「そうだね。しっかりと目標頭数を決められた期日までに捕獲するとか、事業目的を達成することが重要だね」


 これも納得である。


 料簡が狭いとはきつい言葉だが、被害農家の対策を考えれば、わずかでも安価で使い勝手の良いものを提供してシェアを広げて行った方が、余程感謝されるだろう。


「それから、今日はくくりワナについて説明しましたが、箱ワナや囲いワナでの捕獲についても考える必要があります。それについては、またいずれお話する機会もあると思いますが、各人で今のようなシミュレーションをしてみてください」

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