第3章 入学 第13話
「不穏当だけど、野生鳥獣の捕獲は、ある種の戦闘行為として捉えるとわかりやすい。「戦略」・「作戦」・「戦術」・「兵站」は、いずれも軍事用語です。
この各段階を正しく理解することで、効率の良い野生鳥獣の被害対策が実現できることになるので、ぜひ各段階を正しく理解して欲しい」と山里は穏やかに語っているが、内容はなんだか物騒だ。
「一般的には、戦略(Strategy)、作戦(Operation)、戦術(Tactics)の順に視点は、次第に小さくなっていきます。
戦略と作戦と戦術をタイムスケールで捉えると、戦略は五から十年、作戦は三ヶ月から一年、戦術は一日単位の計画として把握すると理解しやすい。また言葉としての使用頻度もそれと比例すると考えれば良い」
まずは、スケールで説明されたが、まだ何がなんだか四人とも分からない状態である。
「戦略とはいくつもの作戦から成り立つもので、単一の作戦によるものは戦略とは言えない。
また、作戦を展開する現場では、無数の戦術が用いられることになる。そして戦略、作戦、戦術を支えるのが兵站となるわけだけれど、分からないよなぁ」
説明している講師が、「分からないよなぁ」なんて言っていて大丈夫だろうかと不安にもなるが、例を挙げた説明にようやくイメージできるようになってきた。
「例えば、『この被害対策事業を受注するべきか。いくらの予算をかけて、どんな成果を求めるか』というように、事業全体の方向性を決定するが戦略。
戦略のミスは、長期的なタイムスケールをもつことから、なかなか取り戻すことは難しい。戦略のミスとは、『この被害対策事業では期待した成果が得られない』ということだ」
なんとなくだが、これは理解できる。
「現時点では、行政側からは個体数を減少させることを目的に、捕獲をコーディネートできる人材を要望する声が大きい。その点からすれば、捕獲コーディネーターの育成が戦略として求められることになるわけだ。
しかしながら、現場での作業を担える人材がいなければ、どんなに優れたアイディアであっても、問題の解決には繋がらないことは周知のとおりだ。
野生鳥獣対策の現状と課題からみれば、現場における従事者の育成と確保が急務であることは間違いのないことだね。
クライアントの目先の要望に応えることも重要であるが、それは作戦で処理しながら、事業の先々を見通した、中・長期的な戦略を考えることも、我々にとっては極めて重要なことになるわけだ」
これまで何度か聞いてきた山里の話の復習のような話だが、捕獲のことを行政マンが知っているわけではないし、そういう人を導くくらいの必要があるということだろう。
「『先日の講習会に参加した行政担当者に順番に営業していきます。』というのはひとつの作戦。
『いつ実施するか、どんな場所で展開するか、どのような捕獲方法を採用するか、その成果をどこで宣伝するか。』というレベルが作戦ね。
作戦のミスとは『捕獲頭数があがらない。もっと技量の高い捕獲従事者の人数を増やすべきだった。』ということであり、これは被害対策事業が始まってしまったらどうにも取り返すことができない」
なるほどと聞き入るしかない。
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