第2章 迷走 第5話

 こうして柴山はワナ猟免許を取得したが、試験を受けて改めて、やはり自分は資格が欲しいのではなく、山里の元でより科学的な捕獲を学びたいということに気づいた。


 狩猟者登録をして狩猟をしたとしても、狩猟期間はわずかに十一月十五日から二月十五日までの三ヶ月間である。


 その時期は、畑には農作物が植えられている時期ではない。


 翌年の植え付けを前に、堆肥をすき込んだり、地力回復のためにマメ科の牧草が生えていたりするが、農作物の被害を防いでいるという実感はなかなか得られないだろう。


 正直なところ、高得点で狩猟免許試験に合格したとはいえ、実際に狩猟を行って直ぐに獲物が獲れるという自信があるわけではない。


 逆に、ワナはどこで購入したらよいのか。ワナはどこなら仕掛けても問題ないのか。誰の土地ともわからない山に勝手に入っても良いのか。


 山に入ったら迷子になったりしないのかなど、まだまだ知らなければいけないことがたくさん見えてきたのだ。


 これでは、まさにペーパードライバーと同じだ。被害農家がワナ猟免許を取得してもなかなか捕獲に至らないというのも実感できる。


 県がベテラン狩猟者を講師に迎えて講習会をセットで開催する意図もよくわかる。


 大学院進学に向けて気持ちを切り替えようとして挑んだ資格試験だったのに、結局思い出すのはあの専門学校のことだった。


 専門学校のホームページを検索したが、四年制学科についてはまだ工事中となっていて、ここでも情報は入手できなかった。


 情報が欲しい。


 今まで何かを学ぶために、こんなにも一所懸命になったことはなかった。もう大学院のことなんて考えていなかった。


 大学院への進学を決めているとは言え、準備することはいくらでもあり、卒論も含めてまずは大学卒業に向けて労力を注ぐべきなのに、気持ちを抑えることができなくなっていた。


 大学の図書館に行っては野生動物や鳥獣害駆除の資料を調べるようになっていた。ともかく知識欲がとどまることなく、また啓太もそんな自分を楽しみはじめていた。

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