第2章 迷走 第6話
そんな時、アウトドアサークルに所属している同級生の後田が声をかけてきた。彼も同じように図書館の、しかも同じ書架で度々顔を合わせていた。
「おい、柴山。この前の講座の時の話なんだけれど、お前はどう思った」
「あぁ、これまでの四年間は一体なんだったんだろうって思っちゃったよ」
「そうだろう。もう俺なんか、頭にきちゃってさぁ・・・。でもさ、冷静になって考えるとなるほどって思えるところもあるんだよなぁ・・・」
負けを認めるって大人でも子供でも難しい。それでも、彼は学ぶべきものがあると感じ取っているのだ。
「そうだな。確かに一理あるって思うところも多かったよな」
「だよな・・・。でも、それを認めちゃうと、今お世話になっている狩猟グループを否定するってことだろう。まいっちゃうよ」
「確かに、あちらをたてればこちらがたたずって感じだな。
でも、確かにこれまでにはなかった視点だし、講師も言ってたけれど『我執を捨てて、学べ』って大事だと思う」
「やっぱりなぁ。そうだよなぁ」
「じゃ、一緒に話を聞きに行ってみないか」
「えっ!直接行くのかよ」
「あぁ、お前だって狩猟グループに直接行って教わっているんだろう。同じじゃないか」
「そうだな」
「連絡先は、会社のホームページで調べればわかるけれど、会ってくれるかなぁ・・・」
「まずは、連絡してみるしかないな」
後田と柴山はアパートが同じで、後田が201号室で、柴山が202号室だった。
昨年、後田が銃の所持許可を取得する時、最寄りの交番の警察官がアパートを訪問したことがあった。
その時、「近隣の人に後田君の人柄を聞く必要があるんだけれど、誰かいる」と警察官が言ったため、たまたま隣の部屋にいた柴山に声が掛かった。
「お隣の後田さんについて、ちょっとお伺いしたいのですが」と警察官がやって来たときには、てっきり後田が何か犯罪をやらかしたのかと焦りもしたが、話の内容を聞いて、彼が同級生でアウトドアサークルに所属していることや日頃からアパート周辺の清掃活動などにも積極的に取り組んでいることなどを話した。
その後、警察官は大家さんにも話しを聞きにいったらしいが、結局普段は銃を銃砲店に預けるということで、所持許可がおりたようであった。
柴山は、後田と入学当初から隣人として話しをすることもあったが、アウトドアサークルにちょっと距離を置いていたこともあって、あまり深い付き合いをしていたわけではなかった。
しかし、この警察官の訪問から、後田が狩猟をはじめたことも知り、その後はなにかと話をするようになっていた。
ということで、一人では気が引けていたことではあったが、後田もその気になっていたことから、重い腰があがった感じである。
そうなると、情報が欲しいと思っていただけに行動は早かった。
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