第2章 迷走 第2話

 試験では、筆記試験で「法律に関する問題」と「猟具に関する問題」、「鳥獣に関する問題」が出題され、七十点以上で合格となる。


 その後、「猟具の取り扱い」と「鳥獣の判別」という実技試験が行われる。


 筆記試験は四者択一で、正しいものあるいは誤っているものの番号を答える方式で、午前中に講師が説明した内容がほとんどそのまま出題されていたが、中には何問かひっかけ問題が含まれていた。


 大学入試に比べれば簡単すぎるほどの試験であり、設定された試験時間をすべて使う受験者はおらず、その後の実技試験は前倒しして行われることになった。


「猟具の取り扱い」では、一人ずつ試験室に入り、試験官と一対一で向かいあう状況で開始された。


「それでは、猟具の取り扱いについて試験を行います。机上にワナが六種類置いてありますが、このなかから法定猟具、使って良いワナだけを選びだしてください」


 左から、「箱ワナ」、「くくりワナ」、「筒式イタチ捕獲器ストッパー付き」、「筒式イタチ捕獲器ストッパーなし」、「とらばさみ」、「はこおとし」と六種類のワナが並べてある。


 これも午前中の講習会で説明されたとおりである。


 難しいのは、「筒式イタチ捕獲器ストッパー付き」と「ストッパーなし」である。


 筒の中を覗けば、くくるワイヤーにストッパーとなるワッシャーが付いているか付いていないかで判断することができるが、講義中にしっかり聞いていないとどちらも同じ物に見えて区別がつかない。


 それから、「はこおとし」は、途中にストッパーとなる桟(さん)がついていれば法定猟具だが、桟がなければ禁止猟具となる。


 これは、ワナにかかった動物が圧死することがないようにとの配慮からなされていると説明があったが、「『さん』ってなんだ?」とはじめに聞いた時にはまったく分からなかった。


 実物を見せてもらって、この部分が桟だと教えられてようやく納得したしだいである。


 くくりワナにも重要な確認ポイントがあって、ワイヤーの直径が四ミリメートル以上であるか。


 より戻しが付いているか。締め付け防止金具が付いているか。くくり輪の直径が十二センチメートル以内であるかなどを確認しなければならない。


 より戻しは、釣りで魚が掛かった時に糸がよじれて切れるのを防ぐものと構造は同じだったので、その役割も理解できたが、締め付け防止金具は解説を聞かないとわからない部品だった。


 説明によれば獣がワナに掛かった時に、必要以上にくくり輪が縮まることで脚切れを防ぐ部品らしいが、団子のような膨らみはかえって獣の脚を傷つけるのではないかと思えた。


「今回の出題ではそのような意地悪な問題はありません」と講師が言っていたので、それを信じることにした。


 そうなると、法定猟具は、左から並んでいる「箱ワナ」、「くくりワナ」、「筒式イタチ捕獲器ストッパー付き」の三つである。


「ストッパーなし」は捕獲個体が死んでしまうので、誤って捕獲してはいけないメスイタチが掛った時に放獣することができなくなってしまうからだ。


 また「とらばさみ」は、愛護団体からの要請で前の法改正で禁止猟具となった。「はこおとし」の桟は、見ると試験官の後の棚の上に置いてあった。


 自信をもって、「これと、これと、これです」と答えた。


「では、次にくくりワナか箱ワナを設置してください」という課題が出題された。


 これも、午前中の講習会でたっぷり練習した「箱ワナ」を選らんで、無事に終えることができた。


「それでは、受験票をもって別室の鳥獣の判別に行ってください」

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